日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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骨代謝とは

ビタミンDとカルシウムの必要性

骨にカルシウムは大切・・・でも十分ではありません

カルシウムが足りなくなると骨が弱くなる。誰もが知っています。では、逆にカルシウムを十分に食べれば、骨は大丈夫なのでしょうか?残念ながら答えはノーです。

骨とカルシウムの関係

筋肉や神経が正常に働くためには、一定の濃度のカルシウムが血液中を常に循環している必要があります。血液中のカルシウムは、血液が腎臓を通って浄化される時、一定の量が尿に排泄されてしまいます。ですから、血液中のカルシウム濃度を保つためには、尿中に排泄されてしまう分のカルシウムがどこかから供給される必要があります。普通は、食べものとして摂取され、小腸から吸収されるカルシウムが、その供給源になります。ところが、カルシウム摂取不足になると、小腸から吸収されるカルシウムだけではまかなえなくなります。かわりに、骨が溶けて、血液中に必要なカルシウムを供給するようになります。だから、カルシウム不足は骨を弱くする、という話になります。

一日のカルシウム摂取は800mg以上を目標に

調査の結果、日本人の大人は、現在、1日平均500-600mgのカルシウムを摂取しているようです。これでは明らかに足りません。一般的に、骨を守るためには1日800-1000mgのカルシウムが必要と考えられています。また、妊娠・授乳中ではさらに多くのカルシウムを摂る必要があります。カルシウムを多く含む食品

ビタミンDが足りないとカルシウムは吸収されません

ところで、十分摂取さえすれば、カルシウムは小腸から吸収されるのでしょうか?また、骨は溶けなくなるのでしょうか?残念ながら答えは、いずれもノーです。腸からカルシウムが摂取されるためには、ビタミンDが必要です。いくらカルシウムを食べても、ビタミンDが足りなければ、吸収効率が悪いためカルシウムはあまり吸収されません。結局、血液中のカルシウム不足を補うため、骨が溶けてしまいます。

カルシウム摂取不足は、骨に悪いのは確かです。しかし、カルシウムさえ十分摂れば大丈夫というわけではありません。

ビタミンD欠乏とビタミンD不足

ビタミンDが極端に不足すると(ビタミンD欠乏)、カルシウムだけでなく、カルシウムとともに骨の石灰化質であるハイドロキシアパタイトを構成するリンも足りなくなります。その結果、骨は骨軟化症という、骨粗鬆症よりひどい状態になってしまいます。成長期の子供が、ビタミンD欠乏になると事態は深刻です。くる病になり、ひどいO脚、成長障害、歩行障害がおこります。現在、日本ではビタミンD欠乏性くる病の乳児が増えています。原因は、極端な母乳信仰とアトピーを恐れた乳製品忌避だと思われています。母乳はカルシウムに富む優れた食品です。しかし、ビタミンDはほとんど含まれていません。ビタミンDを含んだ人工乳を全く使わず、アトピーを恐れて食品制限をした幼児に、このようなビタミンD欠乏性くる病がしばしば見つかり大きな問題になっています。

一方、成人が骨軟化症をおこすようなビタミンD欠乏になることはめったにありません。ビタミンDが不足しているかどうかは、血液検査で血中の25水酸化ビタミンD[25(OH)D]というビタミンDの代謝物を測定することで判ります。

10年くらい前から、欧米では、骨粗鬆症を含む様々な病気とライフスタイルの関係が調べられてきました。血中の25(OH)D濃度と骨の関係も調査されました。その結果、骨軟化症をおこすほど25(OH)D濃度が下がっていなくても、骨を溶かす働きをする副甲状腺ホルモン(PTH)というホルモンが出すぎてしまう(分泌過剰)ことがあることが判明しました。こういう状態を、現在一般に、ビタミンD欠乏に対して、ビタミンD不足もしくはビタミンD不足症と呼んでいます。

ビタミンD不足は骨折の危険因子

ビタミンD不足になると、小腸からのカルシウムの吸収が悪くなります。しかし、その後の研究の結果、どうも、ビタミンD不足は、直接、このPTHという主に骨を溶かす働きのあるホルモンの分泌を亢進させることが判ってきました。さらに、ビタミンD不足になると、筋力、特に下肢の筋力が衰え、転倒しやすくなることも明らかになってきました。

ビタミンD不足になると、骨が溶け骨密度が減るだけでなく、転びやすくなるため、骨折の危険が高まるわけです。

現代人にビタミンD不足は蔓延している

ビタミンD不足なのか、足りているのかは、血液の25(OH)D濃度を測定すれば判ります。欧米の調査では、人口の実に70%前後がビタミンD不足だと発表されています。骨粗鬆症患者さんでは、さらに多くのヒトがビタミンD不足だとの調査結果もあります。日本でも、大腿骨頚部骨折をおこしてしまったヒトには高率にビタミンD不足がみられたというような調査結果があります。しかし、我が国の実態はまだまだ判っていません。実は、血中の25(OH)D濃度測定が保険ではまだ認められていないのです。そのため、日本人のデータは研究として測定されたものしかありません。しかし、欧米での調査結果と同じくらい事態は深刻で、70-80%の日本人成人がビタミンD不足である可能性があります。

日本骨代謝学会では、学会として、日本におけるビタミンD不足の実態を調査し、血中25(OH)D濃度の測定が重要であることを啓蒙しようとしています。このような活動を通じて、血中25(OH)D濃度測定が保険診療でも出来るようになる日が一刻も早く来ることを願っています。

ビタミンD不足の解消は食べ物よりも日光浴で

ビタミンD不足が現代人に蔓延している原因も食生活なのでしょうか?食事も、関係しますが、原因は別のライフスタイルにあるようです。

ビタミンDは、ビタミンの一つに分類されています。本来「ビタミン」は、人体では合成できない微量栄養素に対して、与えられた名前です。しかし、ビタミンDをヒトは体内で作ることが出来ます。ビタミンDは、皮膚で作られます。そして、皮膚がビタミンDを作るためには、紫外線の力が必要です。紫外線に当たらなければ、ビタミンDは作られません。日光に当たらないと、ビタミンDはほとんど作られないのです。

興味深い調査結果があります。赤道直下では、紫外線の力が強力です。ビタミンDの充足度を反映する血中の25(OH)D濃度を女性で国際比較した結果、赤道直下のシンガポールではビタミンD不足の女性が非常に少なかったのに対して、ほぼ同じ緯度でも、サウジアラビアではビタミンD不足の女性が極めて高率にいるのです。原因は服装にあると考えられています。紫外線が強くても、皮膚が日光に当たらなければビタミンDは作られません。先進国でのビタミンD不足の大きな原因が、日焼けを好まない風潮にあるようです。一般的に、晴れた日に顔と肘から先の腕を15分直射日光に当てるだけで、ビタミンDが合成されると考えられています。また、この程度の紫外線では、皮膚癌の心配はほとんどないとされています。

一方、食べものですが、ビタミンDに富む食品はあまり多くありません。サケなどの魚類、アヒルの肝臓、キクラゲなど限られています。食べ物だけで、ビタミンDを充足させるのはかなり困難です。

日照の少ない北欧の人々が、伝統的にサケや肝油を食べ、少ない晴れた日に戸外で日光浴をするのは、生活の知恵なのです。十分日光に当たり、食事に気をつけても血中の25(OH)Dが低く、ビタミンD不足であることが判明した場合は、サプリメントとしてビタミンDを摂ることが勧められます。実際、欧米では、骨粗鬆症の薬物治療の前提として、サプリメント使用を含めた、ビタミンD不足対策が考えられています。

最後に、カルシウムとビタミンDだけでは、骨粗鬆症は治せません

カルシウムとビタミンDが骨の健康のためには大切です。カルシウム不足やビタミンD不足は、骨粗鬆症の原因になるだけでなく、骨粗鬆症治療の障害にもなります。しかし、既に骨粗鬆症と診断されている患者さんの場合、カルシウムとビタミンDだけでは十分ではありません。

世の中にはカルシウムとビタミンDだけで、骨折が防げるというデータもあります。真実でしょう。というのは、今、世界中には、カルシウム不足・ビタミンD不足のヒトが沢山いるからです。不足を解消して悪いはずはありません。しかし、カルシウムとビタミンDだけでは、骨密度が増えないという、厳然とした事実があるのです。

一般に、現在世界的に広く使われている骨粗鬆症薬を内服すれば、背骨や腰骨の骨折がおこる危険を半分にすることができます。このようなデータは、主に欧米でおこなわれたいわゆる治験に基づいています。治験では、治療薬を内服した患者さん達を、内服しなかった患者さんたちと比較します。では、治療薬を内服しなかった患者さん達は何も治療されなかったのでしょうか?治療薬の開発治験のために既に骨粗鬆症と診断されている患者さん達を放っておくことは、倫理的に許されません。実際には、治療薬を内服しないことになった患者さん達は、カルシウムとビタミンDがサプリメントされたのです。もちろん、公平を期するために治療薬を内服することになった患者さんたちも、おなじサプリメントを摂りました。

つまり、骨粗鬆症薬として医師が用いている多くの内服薬は、ビタミンDとカルシウム不足を解消した状態よりも、さらに上乗せ効果として、骨折を半分程度に減らすことが実証されているのです。実際に、日本で行われた治験では、サプリメントではない医療用の活性型ビタミンDを対照群として、骨粗鬆症薬の効果が判定されたものもあります。

カルシウムやビタミンD不足は、骨の健康を蝕みますが、骨粗鬆症の最大の原因ではありません(女性の場合、最大の原因は閉経にともなう女性ホルモンの欠乏です)。カルシウム・ビタミンD不足を解決することで、骨粗鬆症の予防はある程度可能です。しかし、骨粗鬆症と診断された場合、それだけでは十分な治療にはなりません。(骨粗鬆症学会ガイドライン治療薬の推奨レベル表)

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