骨代謝とは
骨代謝マーカー
骨代謝マーカー
ヒトの骨は生涯を通して古い骨を壊して吸収し(骨吸収)、その場所に新しい骨を作る(骨形成)ことにより、血清中のカルシウムの値を調節すると共に骨の強度も保っています。これを骨代謝と呼んでおります。また、骨吸収は破骨細胞が、骨形成は骨芽細胞がそれぞれ担っており、健常人の骨代謝ではこの骨吸収と骨形成はバランスがとれています(図1)。しかし、閉経になり女性ホルモンが減少すると骨吸収が亢進するためにこのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回るために骨密度が減少します。この状態が長期間持続すると骨粗鬆症になります。
骨密度は骨粗鬆症の診断や骨折リスクの指標には有用ですが、現在の骨代謝状態の評価はできません。もし骨代謝状態がリアルタイムにわかれば、将来の 骨密度や骨折リスクの評価が可能になります。この骨吸収や骨形成の程度、言い換えれば破骨細胞や骨芽細胞活性の指標が骨代謝マーカーと呼ばれるものです。本稿では臨床で使用されている骨代謝マーカーと実際の臨床でどのように使用されているかを紹介いたします。
骨代謝マーカーの種類
骨代謝マーカーは骨芽細胞や破骨細胞の産生する酵素や蛋白質、また、骨が壊れたり作られたりする際に生じるコラーゲンの代謝産物から成ります。臨床で使用されている骨代謝マーカーは骨形成と骨吸収に分けられ、検体も血清あるいは尿で調べられます(表1)。また、マーカー毎に基準値も設定されております。ここで大切なことは骨代謝は1日の中でも大きく変化しており、特に深夜から早朝にかけて骨吸収が盛んです。このため、毎回同じ時間帯、できれば午前中に採血や採尿することが望ましいとされております。
(表1)骨代謝マーカーの種類
骨代謝マーカーの臨床的有用性
骨代謝マーカーは臨床的には将来の骨密度減少や骨折リスクの評価や、薬剤の早期治療効果判定や薬剤の適正使用の把握、薬剤の選択などに応用されています(表2)。具体的に骨吸収マーカーの値が高い場合、骨密度の減少速度が早いと判断され、既に骨密度の低い高齢者では骨折リスクが高くなります。このような症例には骨吸収を抑制するような薬剤が選択されます。現在わが国で使用されている骨粗鬆症治療薬は骨吸収を抑制する薬が中心で、ほとんどの場合服薬後1から3ヵ月で骨吸収マーカー値は低下します。低下しない場合は薬剤の服用方法が適正かどうかまずチェックする必要があります。
一方、骨吸収マーカーが基準値以下に低下している場合には骨代謝をむしろ刺激して骨形成を高める薬剤が選択されます。本邦ではまだ使用できませんが、海外ではこのような薬剤も使用されています。
では、骨形成マーカーはどうでしょうか。実は骨形成は骨吸収に刺激されて開始されます。このため、骨形成マーカーが単独で高値ということは少ないわけです。
一般的に骨吸収や骨形成マーカー値が高い場合は、閉経直後などの骨吸収の亢進状態、骨折後、あるいは内分泌疾患や癌の骨転移などが考えられます。
(表2)骨代謝マーカーの臨床的有用性
- 将来の骨量減少の予測
- 急速な骨量減少者の早期発見
- 骨粗鬆症危険性の予知
- 治療開始時期の決定
- 治療効果のモニタリング
- 治療薬の選択
- 治療効果の早期判定
- 適正な薬剤量の判定
- その他
- 適切な服薬方法の確認
- 骨折の予知
- 他の骨代謝性疾患との鑑別
おわりに
骨代謝マーカーは、どの医療施設でも測定することが可能ですが、測定回数に制限があるなどの問題もあります。一般に骨密度測定と組み合わせるとより効果的です。骨代謝マーカーの測定より個々の患者さんに最適な骨粗鬆症治療が可能になりつつあります。