日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

骨代謝とは

グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症について

骨粗鬆症は薬剤でも生じます。最も多いのがグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症で、グルココルチコイドで3ヶ月以上治療した大部分の患者で骨粗鬆症やそれに伴う骨折が生じます。日本では100万人以上の患者がいます。グルココルチコイドとは副腎皮質から産生されるホルモンで、これまで「副腎皮質ステロイド薬」とよばれていました。「ステロイド」は、膠原病リウマチ疾患、呼吸器、腎、神経、消化器疾患など、多くの病気の治療に使用しますが、3ヶ月以上使用している方は骨に要注意です。グルココルチコイドは骨を形成する骨細胞を殺してしまい、3ヶ月以上使用すると、骨粗鬆症を引き起こします。「ステロイド」の最多の副作用です。30-50%に脊椎、大腿骨、橈骨などの骨折を生じ、痛くて日常生活が送れなくなり、寝たきりになる方もいます。年齢、性、人種に関係なく生じ、骨の質が悪化し、骨密度が正常でも骨折します。日本人では、1日にプレドニゾロン1mgの使用でも、骨折率が有意に増えることが報告されました。

一方、的確な管理と治療によって、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症やそれに伴う骨折を抑えることが可能となってきました。例えば、ビスホスホネートの適切な使用で、骨折を90%減らすことが可能です。日本骨代謝学会では、日本人のデータを元に、ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2014年改訂版を発表しました。経口グルココルチコイドを3カ月以上使用中か使用予定の18歳以上の男女では、カルシウムの補給などの一般的指導に加えて、既存骨折、年齢、グルココルチコイド量、骨密度を危険因子として点数評価し、治療介入基準を示しました(図1)。危険因子が3点以上の方は、薬物治療の開始が推奨されます。65歳以上の方、または、プレドニゾロン7.5mg以上使用する方は、それだけで3点以上になりますので、骨密度を測定しなくても、グルココルチコイド使用と同時に、骨粗鬆症治療を開始する必要があります。

使用すべき骨粗鬆症薬についても、世界中の文献検索と専門家の投票によって決定し、日本骨代謝学会からグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023として発刊しました(南山堂)。危険因子が3点以上の方は、ビスホスホネート(内服、注射薬)、抗RANKL抗体デノスマブ、副甲状腺ホルモン1型受容体作動薬テリパラチド、活性型ビタミンD薬エルデカルシトール、または選択的エストロゲン受容体調整薬(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)の使用が推奨されました。椎体骨折予防効果では、ビスホスホネートに比較してデノスマブと遺伝子組換えテリパラチドがより効果が高く、特に骨折リスクが高い症例では後者の有効性が高いことが示されました。

ガイドラインでは、高齢者、小児、妊娠希望年齢、手術におけるグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症についても推奨文が作成されました。特に、高齢者ではグルココルチコイドの開始と同時に骨粗鬆症治療薬を始めることが推奨されました。グルココルチコイドは骨粗鬆症のみならず多彩な副作用を生じ、感染症や心血管障害の明確な危険因子です。欧米では、関節リウマチの治療では、グルココルチコイドの毒性はその有益性を上回ると明記されました。その他の疾患でも、グルココルチコイド(ステロイド薬!)はその毒性のために、最低限の使用に留める、あるいは回避することが推奨されるようになってきました。まずは、グルココルチコイドを使用すべきか否かを十分に検討し、無闇な使用は回避することが必要だとされています。

日本骨代謝学会グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症ガイドライン委員会委員長
田中良哉(産業医科大学医学部第1内科学講座教授)

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