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ASBMR 2025 レポート
大堀 文俊(東北大学大学院 歯学研究科 顎口腔矯正学分野)

紹介演題 [1]
Neutrophil progenitors: protecting the skeleton from their home in the marrow

キーワード

好中球、破骨細胞

研究グループ

Natalie Sims et al.
St. Vincent’s Institute of Medical Research, Australia

サマリー&コメント

好中球は、炎症性疾患の末梢組織において様々なサイトカインを放出することにより、間接的に破骨細胞形成および骨破壊を促進することが知られている。一方で、骨髄に存在する好中球前駆細胞の生理的な役割については、十分に明らかにされていない。本研究グループはこれまでに、G-CSF受容体欠損による好中球減少症マウスおよびDmp1Cre.Socs3f/fマウスの両方において、正常な骨構造の形成が認められないことを報告した。本研究では、好中球除去に用いられている抗Ly6G抗体をDmp1Cre.Socs3f/fマウスに2週間または6週間投与し、骨髄中の好中球前駆細胞が骨代謝に与える影響を検証した。その結果、2週間と6週間投与したそれぞれの群で好中球前駆細胞に与える影響は異なっており、いずれのマウスもG-CSF受容体欠損マウスにみられる好中球の減少パターンを完全に再現しなかった。2週間の抗Ly6G抗体投与では骨髄中の未成熟好中球が増加して破骨細胞のマーカーが低下したのに対し、6週間の投与では前好中球が減少した。特に6週間の抗Ly6G抗体投与は、コントロールマウスおよびDmp1Cre.Socs3f/fマウスの両方で骨吸収を亢進させ、海綿骨量の減少を引き起こした。さらに、in vitro解析では前好中球は可溶性因子を介して破骨細胞形成を直接的に抑制することが明らかとなった。以上の結果から、骨髄中の好中球前駆細胞は破骨細胞形成を抑制し、生理的な骨構造の維持に寄与することが示唆された。

これまでの報告では、炎症部位における成熟好中球が破骨細胞形成を促進することに焦点が当てられてきた。しかし本研究では、好中球前駆細胞が多様な機能を有し、生理的条件下の骨髄内では骨構造の維持に重要であることを示しており、極めて興味深い。今後、好中球系譜の段階ごとの機能的多様性と骨代謝制御との関連がさらに明らかにされることが期待される。

紹介演題 [2]
Local, Not Global: Osteocyte-Derived LCN2 Drives Bone Remodeling via Wnt Pathway during homeostasis

キーワード

リポカリン2(LCN2)、骨細胞、フェロトーシス

研究グループ

Vivek Khanal et al.
University of Arkansas for Medical Sciences, USA

サマリー&コメント

リポカリン2(LCN2)は、細胞内の鉄レベルを調節する分泌型糖タンパクである。LCN2はその受容体であるSLC22A17に結合して鉄の取り込みを促進し、鉄依存性の制御された細胞死の一種であるフェロトーシスを誘導することが知られている。本研究グループは以前、骨細胞がLCN2およびSLC22A17の両方を発現していることを見出したことから、本研究ではLCN2が骨細胞内の鉄代謝を制御することで骨リモデリングに関与しているという仮説を立てた。OCY454骨細胞様細胞を用いたin vitro解析により、LCN2はSLC22A17を介して骨細胞における鉄蓄積を促進し、ミトコンドリア機能障害、およびフェロトーシスを誘導することが明らかとなった。また、骨細胞特異的Lcn2欠損(Dmp1-Cre; Lcn2fl/fl)マウスでは、骨細胞のミトコンドリアの恒常性が維持され、鉄過剰が抑制されることでフェロトーシスが減少していた。さらに、海綿骨量の増加、骨芽細胞の活性の上昇、ならびに骨細胞樹状突起の連結性向上が認められた。機能的解析により、骨細胞におけるLcn2欠損は骨細胞のDKK1およびSOSTの発現を抑制することで、骨芽細胞のWnt/β-cateninシグナル伝達を活性化して骨形成を促進することが示された。その結果、骨細胞由来のLCN2は骨組織内でのオートクリンおよびパラクリン的に機能していることが示唆された。以上より、LCN2は骨細胞内の鉄代謝とフェロトーシスを制御することで骨芽細胞活性を調節し、骨恒常性維持に重要な役割を担っていることが示唆された。

細胞死研究の進展により、従来のアポトーシスやネクローシスの枠組みを超えた多様な制御された細胞死(regulated cell death: RCD)が次々と明らかになっており、フェロトーシスもそのひとつとして注目されている。LCN2を標的とした介入は、骨粗鬆症などの骨破壊性疾患に対する新たな治療戦略となる可能性が期待される。

ASBMR 2025に参加した東北大学大学院 歯学研究科 顎口腔矯正学分野と歯科保存学分野のメンバーとともに(右端が筆者)。