骨ルポ
ANZBMS 2026 レポート
柴田 和楽(東京理科大学大学院 薬学研究科 薬科学専攻)
この度、第44回日本骨代謝学会学術集会においてANZBMS 2026 Travel Awardを受賞し、ニュージーランド・オークランドで開催されたANZBMS 2026にてPoster Sessionでの発表の機会をいただきました。初めての国際学会への参加で緊張もありましたが、多くの先生方から温かいご助言や貴重なご意見をいただき、大変有意義な経験となりました。
紹介演題 [1]
Repurposing FDA-Approved Drugs Targeting OXR1 to Suppress Osteoclastogenesis and Prevent Bone Loss
キーワード
破骨細胞、ドラッグリポジショニング、OXR1
研究グループ
Xiaojun X.C. Chen(School of Biomedical Sciences, The University of Western Australia, Perth, WA, Australia)
サマリー
本研究では、酸化ストレス応答因子であるOXR1に結合する既存薬を探索するため、約2,600種類のFDA承認薬を対象にin silicoスクリーニングを実施した。その結果、抗ウイルス薬Velpatasvirと抗精神病薬Thiothixeneが有力な候補として同定され、SPR解析によってOXR1への直接結合が確認された。さらに、骨髄マクロファージを用いた培養系では、両薬剤がRANKL誘導性の破骨細胞分化および骨吸収能を濃度依存的に抑制し、その際に破骨細胞分化の主要転写因子であるNFATc1や破骨細胞マーカーであるCTSKの発現低下が認められた。また、Oxr1欠損細胞ではこれらの抑制効果が消失したことから、薬剤作用がOXR1依存的であることが示された。さらに卵巣摘出(OVX)マウスを用いた骨粗鬆症モデルにおいても、両薬剤は骨量減少を抑制し、組織学的にも破骨細胞数の減少が確認された。以上より、OXR1が新たな破骨細胞制御因子である可能性と、既存薬のドラッグリポジショニングによる骨吸収性疾患治療への応用可能性が示された。
コメント
本研究で特に興味深かった点は、OXR1というこれまで破骨細胞研究ではあまり注目されてこなかった分子を創薬ターゲットとして位置付け、計算科学から細胞実験、さらに動物実験まで一貫して機能検証を行っていたことである。また、既存薬を活用するドラッグリポジショニング戦略は、新規化合物開発と比較して臨床応用までの時間やコストを抑えられる点で大きな利点があると感じた。一方で、OXR1がどのような分子機構を介してNFATc1の発現を制御しているのかについては今後さらなる解析が必要であり、破骨細胞分化制御の新たなシグナル経路の解明につながる可能性があると考えられた。私自身も破骨細胞分化制御を研究しているため、既存薬探索と遺伝学的解析を組み合わせた研究デザインは非常に参考になった。
紹介演題 [2]
Mfsd12 deficiency in mice causes bone loss and a multisystem lysosomal storage disorder
キーワード
破骨細胞、リソソーム、MFSD12
研究グループ
Jasreen Kular(School of Biomedical Sciences, The University of Western Australia, Crawley, WA, Australia)
サマリー
リソソームは細胞内の分解・代謝を担う重要なオルガネラであり、破骨細胞では骨吸収に必要な酵素を供給することで骨代謝に深く関与している。本研究では、破骨細胞の分泌リソソームに存在するシステイントランスポーターMFSD12に着目し、その生理学的役割を解析していた。システインは、活性酸素種から細胞を保護するグルタチオンの合成や、骨基質の分解を担うカテプシンの機能維持に必要なアミノ酸である。発表者らは、MFSD12がヒトおよびマウスの破骨細胞で高発現することを示した上で、CRISPR-Cas9を用いてMfsd12欠損マウスを作製し、その表現型を解析した。その結果、欠損マウスでは著しい低骨量を示すだけでなく、腎結石を伴う腎障害や肝腫大などの全身性異常が認められた。さらに電子顕微鏡解析では、結晶様構造を含む異常リソソームが観察され、MFSD12欠損によってリソソーム機能が大きく障害されることが明らかとなった。
コメント
本発表を通じて、骨代謝研究とリソソーム研究が密接に結び付いていることを改めて実感した。特に印象的だったのは、単なる骨表現型の解析にとどまらず、腎臓や肝臓を含む全身レベルで表現型を評価していた点である。破骨細胞におけるシステイン利用やリソソーム輸送機構が、骨吸収だけでなく生体全体の恒常性維持に関わる可能性が示されており、非常に興味深く感じた。また、本研究で認められた表現型が希少リソソーム病であるシスチノーシスと類似していた点も印象的で、基礎研究の成果が疾患理解につながる好例であると感じた。リソソーム機能異常という観点から骨代謝を捉える新たな視点を得ることができ、大変勉強になった。
Travel Award受賞者の懇親会では、日本の先生方と交流を深めることができました。


