骨ルポ
ECTS 2026 レポート
貞盛 耕生(岐阜薬科大学 機能分子学大講座 薬理学研究室)

ECTS East-meets-West Research Awardの授賞式の写真。海外のトップ研究者と議論を交わす大変貴重な経験となりました。本学会での発表にあたり、お世話になった先生方や研究室の皆様、Travel Awardを助成していただいた日本骨代謝学会に深く感謝いたします。
紹介演題 [1]
The DAMP-PRR axis promotes osteoclastgenesis and upregulated in osteoclasts and in bone of mice with metabolic dysfunction-associated steatotic disease (MASLD)
キーワード
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、ダメージ関連分子パターン、破骨細胞ク
研究グループ
M. De Montenegro Cortez et al. Center for Regenerative Therapies Dresden, Technische Universität Dresden, Dresden, Germany
サマリー
代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肝細胞内に脂質が過度に蓄積することで生じる疾患であり、骨量減少や骨折リスクの上昇、および骨再生能力の低下と関連しています。MASLDの特徴として、過剰な細胞死とダメージ関連分子パターン(DAMPs)の放出が挙げられるが、これらのDAMPsが破骨細胞上のパターン認識受容体(PRRs)の活性化が、破骨細胞活性と骨吸収を促進しているのかどうかは、不明のままである。本研究では、細胞死およびDAMPsの放出が、破骨細胞形成と骨損傷時にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。また、MASLDが破骨細胞およびDAMP–PRR軸に及ぼす影響を解析し、食事介入がこれらの影響を軽減できるかを検討した。その結果、分化2日目の破骨細胞前駆細胞を壊死骨芽細胞と共培養したところ、TRAP陽性破骨細胞の形成が促進され、PRR(Mincle, Tlr2)の発現が増加した。頭蓋骨欠損モデルでは、欠損部において破骨細胞マーカー遺伝子(Acp5, Ctsk)の発現が上昇しており、これはPRR(Dectin-1, Tlr4)の発現増加と一致していた。また、MASLDマウスでは破骨細胞分化が亢進しており、破骨細胞および骨組織の両方でPRR(Dectin-1, Mincle, Tlr4)の高発現を伴っていた。これらのPRR発現の上昇は、食事介入によって抑制された。骨損傷時および代謝性疾患において、DAMP–PRR経路の活性化を伴う破骨細胞形成の亢進が認められた。これらの結果より、MASLDの病態進展における病的な骨吸収の役割を明らかとするとともに、DAMP–PRR軸がMASLD治療標的となる可能性を示唆された。
コメント
本研究では、破骨細胞を「DAMPsを感知する免疫細胞」と定義し、MASLD病態と結びつけた点に独自の新規性を感じました。また、MASLDによる骨代謝への影響が、食事介入により改善可能であることを明らかにした点は、骨脆弱性を有する同疾患患者へのライフスタイル介入の強力なエビデンスになり得る非常に価値の高い研究内容と感じました。
紹介演題 [2]
Local NAD+ Replenishment via Nicotinamide Riboside-Conjugated Triple Hyaluronic Acid Hydrogel Ameliorates Achilles Tendonitis
キーワード
異所性骨化、鉄代謝
研究グループ
S. Spangenberg et al. Dresden University of Technology, Department of Medicine III and Center for Healthy Aging, Medical Faculty and University Hospital Carl Gustav Carus, Dresden, Germany
サマリー
異所性骨化(HO)は、軟組織上に病的な骨組織が形成される疾患であり、炎症、軟骨形成、骨形成の段階を経て進行する。鉄恒常性は、炎症プロセスや骨形成において重要な役割を果たしている。本研究では、鉄代謝がHOの発症にどのように影響するかを解明することを目的とした。
野生型(WT)マウスに8週間、低鉄食(10 ppm未満)、通常食(200 ppm)、または高鉄食(20,000 ppm; HID)を摂取させた。その後、前脛骨筋にリコンビナントBMP-2を注入してHOを誘発し、発症部位をフローサイトメトリー(3日目)、タンパク質解析(3日目)、およびマイクロCT(14日目)により解析した。また、ヒトHOサンプルの鉄含有量を、人工股関節置換術を受けた患者の大腿骨頭と比較した。
その結果、通常食群と比較して、高鉄食群ではHOが増加した一方、低鉄食群では減少した。マウスのHO組織およびヒトの進行したHO組織では、正常な骨と比較して鉄レベルが有意に高かった。
続いて、HO誘発3日目において、高鉄食群では局所的な酸化ストレスと、筋肉内への炎症細胞(古典的マクロファージ、好酸球)の集積が認められた。加えて、炎症性サイトカイン(IL-3, IL-4, IL-5, IL-33)および血小板関連成長因子(PD-ECGFなど)の有意な上昇が認められた。
さらに、クロドロン酸によるマクロファージ除去はHO形成に影響を与えなかったものの、好酸球欠損マウスではHID摂取によるHOの増悪が完全に抑制された。また、イタコン酸やデキサメタゾンによる抗炎症治療は、鉄誘発性のHO増悪を効果的に減少させた。
本研究は、鉄の恒常性がHOに及ぼす影響を解析し、好酸球が鉄誘発性HO増悪の潜在的な免疫細胞であることを同定した。本研究の知見より、好酸球を標的とした抗炎症薬や鉄キレート剤が、HOの新しい治療選択肢となる可能性を示唆している。
コメント
鉄の過剰摂取がHOを劇的に増悪させ、マクロファージではなく好酸球が鉄誘発性HOの必須因子であると突き止めた点は、本研究の最も独創的な新規性だと感じました。また、ヒトの臨床検体におけるHO組織内での鉄蓄積を提示している点も、本研究のトランスレーショナル性を高めていると思います。

立ち寄ったレストランで食事したパエリアの写真


