骨ルポ
IFMRS 2025 レポート
貞盛 耕生(岐阜薬科大学大学院 機能分子学大講座 薬理学研究室)

今回が初めての口頭発表だったこともあり、普段と異なる雰囲気に非常に緊張しましたが、Travel Award受賞者の方々との食事会を通じて気持ちを落ち着けることができ、無事に発表を終えることができました。
紹介演題 [1]
Cysteine proteases in osteocytes inhibit mineral accrual and maturation in mature murine bone
キーワード
アミノ酸代謝、骨細胞
研究グループ
Martha Blank et al. St Vincent’s Institute of Medical Research, Melbourne, VIC, Australia
サマリー
本研究は、骨脆弱性は骨量の低下だけでなく、骨組織の過剰な石灰化による脆弱化でも生じることが知られている。著者らはこれまでに骨細胞のリソソーム機能低下が過剰石灰化を引き起こすことを報告している。この知見を活かし本研究では、骨細胞のシステインプロテアーゼ(カテプシンB、カテプシンL、カテプシンXなど)が骨石灰化過程においてどのような役割を果たすかを明らかにすることを目的とした。
骨細胞様細胞Ocy454を用いたin vitro実験で、システインプロテアーゼ阻害剤E-64を添加すると濃度依存的にAlizarin Red染色陽性面積が増加し、石灰化沈着量が上昇した。in vivoでは6週齢雌C57BL/6マウスにE-64を頭蓋骨上に投与し、蛍光プローブBMV109にてカテプシン活性を測定したところ、カテプシンB、L、Xのいずれの活性も有意に抑制された。その後、骨形成促進因子Oncostatin Mを投与して新生骨形成を誘導し、続けてE-64を投与した結果、マイクロCT解析似て石灰化密度は上昇するが皮質骨の厚さには変化がみられなかった。またFTIR解析では、E-64群でmineral:matrix比およびcarbonate:mineral比が上昇し、特に既存の古い骨組織領域で顕著であった。
これらの結果より、骨細胞由来のシステインプロテアーゼが骨組織の物質的性質を制御し、過剰石灰化を防ぐ重要な役割を担うことが示唆された。
コメント
骨細胞が単なる代謝センサーではなく、リソソーム酵素を介して骨の石灰化の品質維持を制御している点が非常に興味深かったです。システインプロテアーゼ阻害を利用した骨系統疾患への新しい治療戦略の可能性を感じました。
紹介演題 [2]
Local NAD+ Replenishment via Nicotinamide Riboside-Conjugated Triple Hyaluronic Acid Hydrogel Ameliorates Achilles Tendonitis
キーワード
アキレス腱、NAD
研究グループ
Shibo Wei et al.
Gwangju Institute of Science and Technology, Gwangju, SOUTH KOREA, South Korea
サマリー
アキレス腱炎は炎症や微小断裂を特徴とする変性疾患であり、既存治療では初期段階での炎症抑制と組織修復の両立が難しいとされている。Nicotinamide riboside (NR)はNAD⁺の前駆体として細胞エネルギー代謝や組織修復を支えることが知られているが、全身投与では局所効果が得にくい。本研究では、NRを局所的に供給できる生分解性・粘着性のハイドロゲルを設計し、マウスのアキレス腱炎モデルに応用した。
空間トランスクリプトミクス解析を用いて組織内遺伝子発現を高解像度で可視化した結果、tendonitis患者データセットで確認されたNAD⁺代謝異常が、ideal-NR投与により回復傾向を示した。in vivoでは、局所的なideal-NR投与により腱の可動性と強度が顕著に改善し、炎症および酸化ストレスの軽減、コラーゲンリモデリングの促進が確認された。さらにin vitro解析でも、ヒト腱細胞およびマクロファージにおいて炎症抑制と修復促進作用が再現された。
これらの結果から、ideal-NRによる局所NAD⁺補充は、従来の全身投与の限界を克服し、損傷部位での生理的再生を促す新たな治療戦略となることが示唆された。
コメント
本研究は、局所的なNAD⁺補充による新しいアキレス腱炎治療法の開発を目的とし、NRを結合させた三重ヒアルロン酸ハイドロゲル(ideal-NR)の有効性を検証したものです。代謝補因子NAD⁺を再生医療へ応用するという革新的な発想を実証したものであり、エネルギー代謝と炎症制御を結びつけた局所治療の可能性を感じました。ハイドロゲル技術との融合は、腱炎のみならず他の組織修復治療にも応用できる点で極めて意義深いと思います。

会場近くの水族館に立ち寄りました。国内外の最新の骨代謝研究に触れるとともにオーストラリア周辺の豊かな自然環境についても学ぶことができ、非常に有意義な3日間でした。


