徳は孤ならず必ず隣あり~IOF President’s Award受賞報告
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このたびInternational Osteoporosis Foundation (IOF)より、IOF President's Awardを受賞させていただきました。日本骨代謝学会は、IOFのCommittee of National Societies (CNS)の参画団体であり、IOFによる国際的な骨代謝学・骨粗鬆症臨床の発展活動に貢献しています。このたびIOFから日本の活動が評価されて、その代表としてPresident‘s Awardを受賞したことは、大変名誉なことと感じるとともに、ともに手を携え、この領域の発展に力を尽くされている先生方、皆様方に改めて御礼申し上げたく存じます。
IOF理事長 Nicholas Harvey 教授より授与 (第25回WCO-IOF-ESCEO Congress, ローマにて)
IOFとは
国際骨粗鬆症財団(IOF: International Osteoporosis Foundation)は、スイス連邦のレマン湖のほとりの小さな街、ニヨン市に本拠地をおく国際的な医療学術団体です。骨粗鬆症と関連する筋骨格系疾患の予防、診断、治療に関する啓発活動を専門とする世界最大の非政府組織で、世界中の300以上の団体が加盟しています。IOFは、「世界中から骨粗鬆症による骨折をなくす」ことを目標に、地球規模で活動を展開しており、高齢者の寝たきりの主たる原因の一つである骨粗鬆症対策において重要な役割を担っています。さて、IOFの主な取り組みとしては、世界骨粗鬆症デーの制定や骨粗鬆症患者憲章の制定など啓発活動を世界保健機関と協力しておこなうことや、人材育成、国際的なネットワークの構築、臨床医学におけるエビデンス創出や診療ガイドづくりなど、多岐にわたります。IOFの取り組みの中で特に力をいれているものの1つが、脆弱性骨折後の二次性骨折予防の取り組み Fracture Liaison Services(FLS)です。FLSをどのように推進するかは、各国や地域により事情が大きく異なるため、おおまかな枠組み(Best Practice Framework)を策定し、その量的達成度を評価することで世界標準の医療サービスを行うことを支援しています。
IOFとの関わり
IOFの中心メンバーには地理的に欧州の医師・研究者も多く、以前より「日本での骨粗鬆症診療の状況はどうか?」という質問を個人的に受けることが多くありました。そうこうするうちに、かつて同じ研究室にいたSerge Ferrari博士から、科学諮問委員会(CSA: Committee of Scientific Advisors)で「糖尿病と骨」に関するワーキンググループを作るので手伝ってくれないか?との申し出をうけました。内分泌代謝糖尿病領域と骨代謝領域をつなぐ立場として、お役に立てる機会もあるだろうと考え、CSAに加わり毎年IOFの会議にも参加するようになりました。参加の機会が増えるとともに知人も増え、アジア太平洋地域諮問委員会(RAC: Regional Advisory Council)、そしてアジア太平洋地域理事にも選出していただき、IOFに対する日本の窓口機能を担うようになってきました。今年の12月に日本で開催される第9回IOFアジア太平洋骨健康国際会議(IOF Regional 9th Asia-Pacific Bone Health Conference)では、IOF理事長Nicholas Harvey教授との共同大会長として、IOFの国際学会の運営に携わる機会をいただきました。
2025年12月11-13日東京 浜松町にてハイブリッド開催予定
Capture-the-Fracture™プログラムへの貢献とPresident’s Award 受賞
IOFの重点事業であるFLSを展開するために、IOFはCapture-the-Fracture™プログラムを展開しています。このプログラムでは、先に述べたBest Practice Frameworkの基準に到達した医療機関を認定して、世界地図に表示する“Map of Best Practice”をホームページ上で公開しています。FLSの品質アップとMap of Best Practiceへの表示施設を増加させるために、IOFでは各国にその指導を行うメンターを育成するMentorship programを開始しました。日本からは私を含む7名の先生がメンターに指名され、オンラインでの教育プログラムを受講し、IOFからメンターとして認定されました。
IOFメンター
(写真左より 萩野浩先生、鈴木敦詞、池田聡先生、山本智章先生、瀧川直秀先生、田中雅博先生、安岡宏樹先生)
メンターの先生方の努力と日本の骨粗鬆症に関わられる皆様の熱意のもと、Mapに登録される日本の医療施設は大幅に増加し、全世界の登録施設の約10%を占めています(2025年8月1日 1192施設中120施設が日本よりの登録)。日本では2022年4月に世界で初めて大腿骨近位部骨折患者へのFLSに対して診療報酬算定が可能となりました(二次性骨折予防継続管理料)。この日本の取り組みは、メンターシッププログラムの成功例として高く評価され、世界中が日本の骨粗鬆診療の発展に熱い視線をおくっています。2025年よりCapture-the-Fracture™プログラムはリニューアルされ、IOF Governance mentorshipサブグループが編成されました。私もメンターシップワーキンググループ長の一人として、これからもCapture-the-Fracture™プログラムに関わっています。
2013年から10年以上にわたりIOFと日本の架け橋としての役割を果たしてきたことと、Capture-the-Fracture™プログラムの日本での成功の一端を担ったことが評価され、2025年4月にIOF President's Awardが授与されました。日本人として初めての受賞です。この受賞は、私個人の業績というよりも、日本の医療・医学を骨粗鬆症リエゾンサービスとして展開・定着させた取り組み全体への評価と感じております。また、このような地道な活動を表彰するIOFの炯眼にも感銘をうけました。今回の経験から、利害によらず、陰徳を積むことには必ず支援者やそれを評価する共感者が存在することを改めて感じました。これからも、日本骨代謝学会会員の皆様はじめ、志を同じくする多くの皆様方とともに、骨領域の発展・社会貢献に力を尽くしてまいります。