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RKIPは破骨細胞分化とH型血管形成を制御する

RKIP regulates bone marrow macrophage differentiation to mediate osteoclastogenesis and H-type vessel formation
著者: Zeyu Zheng, Siyue Tao, Jiayan Jin. et al
雑誌: Nat Commun. 2025; 16: 7604
  • 骨髄マクロファージ
  • 破骨細胞
  • 血管新生

論文サマリー

著者らは、Rafキナーゼ阻害タンパク質(RKIP)の骨代謝制御における役割を検討し、全身およびミエロイド系特異的にRKIPを欠損させたマウスの解析から、いずれにおいても骨吸収抑制と骨形成促進を伴う骨量増加が生じることを見出した。破骨細胞分化系のin vitro解析により、RKIPがARHGAPと結合して低分子量Gタンパク質CDC42の不活性化を抑制し、破骨細胞分化を促進する新規経路を同定した。一方、RKIPを欠損した骨髄系細胞では血管新生関連遺伝子の発現上昇が認められ、ミエロイド系特異的RKIP欠損マウスにおいて、骨形成促進に関与するH型血管の増加が観察された。さらに、RKIPが核内でHIF1αおよびVHLに結合し、HIF1αの分解を促進することで血管新生関連遺伝子の転写を抑制する新たな機構を提示した。アデノ随伴ウイルスによるRKIPノックダウンやRKIP阻害剤(Locostatin)投与が卵巣摘出モデルで骨量減少を改善したことから、RKIPは骨吸収と骨形成の双方を統合的に制御する創薬標的分子として有望であることが示された。

推薦者コメント

本研究は、RKIPが破骨細胞分化を規定する分子スイッチとして機能し、破骨細胞分化の抑制と血管新生の促進という二重の作用をもつことを明らかにした。先行研究において、破骨前駆細胞がPDGF-BBの分泌を介してH型血管形成を誘導することが示されており、本研究はこの機構の理解を一層深化させ、PDGF-BB 制御におけるRKIPの関与を示した点で意義深い。一方で、本論文では破骨前駆細胞をマクロファージとして位置づけており、RKIPが骨髄マクロファージから破骨細胞あるいは血管新生性マクロファージへの運命決定を制御するとする著者の主張は、従来の骨髄マクロファージに関する知見とは整合しないところがあり、慎重な解釈が求められる。

同志社大学生命医科学部医生命システム学科・井上 侑美、西川 恵三)

(2025年10月30日)