造血幹細胞の数はニッチの数で規定されない
| 著者: | Takeishi S, Marchand T, Koba W, et al |
|---|---|
| 雑誌: | Nature 646: 687, 2025 |
- 造血幹細胞
- ニッチ
- トロンボポイエチン
論文サマリー
造血組織である骨髄には、造血幹細胞(HSC)を維持・制御するための骨髄微小環境(ニッチ)が存在する。一方で、HSCに比べてニッチ構成細胞が著しく過剰に存在することが知られており、このことはHSCとニッチとの間に数的制限機構が存在する可能性を示唆してきた。しかし、ニッチモデルが提唱されてから約50年が経過した現在においても、その制御機構の実体は明らかにされていない。本研究では、最大6本の大腿骨を1匹のマウスに移植することで、生体内におけるニッチ量を人為的に増加させる新規モデルを構築し、HSC数を規定する全身的制御機構の存在を検証した。驚くべきことに、このモデルではニッチ総量を大幅に増加させても、生体全体におけるHSC数は一定に維持されていた。さらに、放射線照射やニッチ因子の局所損傷を与えても、非損傷骨におけるHSCの補償的増加は認められなかった。これらの結果から、HSC数は全身的な上限によって厳密に制御されると同時に、各骨単位においても局所的に数が保たれていることが示された。加えて、トロンボポエチン(thrombopoietin: TPO)が、全身レベルでのHSC数を決定づける上で中心的な役割を担っていることが明らかとなった。
推薦者コメント
本論文では、HSC数が全身および局所レベルで維持される「二層的制限システム」によって制御されていることを明らかにした。HSC数がニッチ構成細胞と比較して少なく抑えられている生物学的意義は依然として不明であるが、近年、HSCが白血病幹細胞や前白血病幹細胞の起源となることが報告されている。これらの知見を踏まえ、著者らは、白血病発症を防ぐための生体防御機構としてHSC数が制限されている可能性を予想している。
東京歯科大学口腔科学研究センター・溝口 利英
(2025年10月30日)



