リンホトキシンβは乳がん骨転移におけるがん細胞の定着と溶骨性増殖を促進する
| 著者: | Wang X, Zhang T, Zheng B, et al |
|---|---|
| 雑誌: | Nat Cell Biol. 2024; 26:1597–1612 |
- がん骨転移
- 破骨細胞
- リンホトキシンβ
論文サマリー
骨転移は乳がん患者の約70%以上に発生する深刻な合併症である。これまで破骨細胞活性化・骨破壊が顕著となる、いわゆる骨転移後期に関する分子機構については理解が進んできたが、がん細胞の初期定着に関わる骨微小環境シグナルについては未だ不明な点が多い。本研究では、乳がん細胞株4T1を用いた骨転移モデルマウス(左心室移植)の初期・進行期・後期の各時期の骨組織から採取したがん細胞と、乳腺原発巣(同所性移植)のがん細胞、並びにin vitro培養細胞を用いてscRNA-seq解析を実施し、転移初期に特徴的な遺伝子群を探索した。その内、膜タンパク質と可溶性因子を対象としたcDNAライブラリーを用いてin vivoスクリーニングを行い、最終的にリンホトキシンβ(LTβ)を骨転移促進因子として同定した。LTβを過剰発現させた腫瘍細胞株では骨転移巣の増大と骨破壊が増悪し、逆にLTβノックダウン細胞では転移抑制と生存延長をもたらした。一方、原発巣モデルや肺転移モデルには影響を与えなかった。次に腫瘍細胞とMC3T3細胞及び間葉系幹細胞との共培養実験から、骨芽細胞由来RANKLが腫瘍細胞のLTβ発現を誘導することを示した。さらに腫瘍細胞由来LTβは骨芽細胞に作用しNF-κB2経路を介してCCL2/CCL5産生を促進する。またCCL2/CCL5は腫瘍細胞の骨芽細胞への接着を強化するとともに、マクロファージの遊走と破骨細胞分化を促進した。LTβ阻害デコイ受容体の投与によりマウスの骨転移を顕著に抑制し、臨床検体でも原発腫瘍に比べて骨転移巣で高いLTβ発現が確認された。以上より、LTβは骨微小環境依存的に誘導され、乳がん骨転移の定着と溶骨型転移を促す重要因子であることが明らかとなった。
推薦者コメント
骨転移指向性の低いがん細胞株でもLTβ過剰発現で骨転移誘導率が増加することを示しており、LTβが骨転移を決定づける重要因子であることが伺えられる。一方メカニズムに関して、LTβ-CCL2/CCL5が腫瘍細胞と骨芽細胞との定着に関与することを示しているものの、in vivoデータが十分とは言えず、LTβによるがん細胞定着機構に関してさらなる検証が必要であろう。
金沢大学がん進展制御研究所免疫環境ダイナミクス研究分野・嵐菜摘、岡本一男
(2025年10月30日)



