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機械的ストレスおよび関節円板位置異常モデルを介した、変形性顎関節症発症における滑膜の細胞内応答の解明

Defining subcellular synovial responses in TMJ osteoarthritis onset via mechanical stress and articular disk derangement models
著者: Kazuhiro Shibusaka, Soichiro Negishi, Asuka Terashima, Miki Maemura, Hiroshi Yoshida, Masahiro Hosonuma, Nobuhiro Sakai, Young Kwan Kim, Yutaka Suzuki, Hiroyuki Okada, Fumiko Yano
雑誌: Int J Oral Sci. 2026 Mar 12;18(1):28. doi: 10.1038/s41368-025-00411-6
  • 変形性顎関節症
  • 関節円板滑膜
  • 空間トランスクリプトーム解析


2024年ASBMRでYIAを受賞した際の祝賀会(Toronto、CN Tower)


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論文サマリー

顎関節症の中でも、顎関節変形性関節症(TMJ-OA)は軟骨や骨の変性を伴う進行性疾患であり、特に女性に多くみられることが知られています。一方で、顎関節は膝関節などの四肢関節とは構造や細胞起源が異なるため、顎関節特有の発症機序や病態形成については未解明な点が多く残されています。近年では、OA発症における滑膜炎の重要性が注目されていますが、関節円板や後方滑膜において、どのような細胞・分子変化が初期段階で生じるのかは十分に明らかになっていませんでした。

本研究では、ヒトTMJ-OAの主な誘因として考えられる「不正咬合による機械的ストレス(MS)」および「関節円板前方転位(ADD)」を再現した2種類のマウスモデルを作製し、顎関節初期病態の解析を行いました。誘導3週間後にマイクロCTおよび組織学的解析を実施した結果、両モデルともに下顎頭軟骨下骨で破骨細胞活性の亢進と骨量減少が認められ、骨吸収が早期から進行していることが示されました。

さらに、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)と高解像度空間トランスクリプトーム解析(Xenium)を組み合わせることで、関節円板および後方滑膜組織における細胞動態を詳細に解析しました。その結果、MSモデルでは後方滑膜に脂肪細胞集積を伴う代謝的変化が認められた一方、ADDモデルでは滑膜肥厚や線維化、マトリックス分解酵素の発現亢進、軟骨基質破壊が顕著であり、機械的刺激と炎症刺激で異なる病態形成機序が存在することが明らかとなりました。

また、正常状態の後方滑膜表層にはPrg4やClic5を高発現する恒常性維持型細胞群が均一に存在していましたが、MSやADDによる持続的負荷によってその均一性が破綻し、炎症性・病的滑膜線維芽細胞へと多様化する様子が空間的に可視化されました。これにより、後方滑膜における恒常性維持機構が破綻していく過程が、単一細胞・空間レベルで初めて明確に示されました。 本研究は、TMJ-OA初期病態における関節円板後方滑膜の分子病態を包括的に解明した成果であり、顎関節特有の病態理解を大きく前進させるものです。さらに、恒常性維持に関与する細胞群や病的滑膜線維芽細胞を新たな治療標的として提示した点で、将来的な分子標的治療や予防戦略の開発につながる重要な基盤研究として期待されます。


本論文のGraphical Abstract

著者コメント

私の20代後半は、マウス病態モデルの構築と最新の空間トランスクリプトーム解析に没頭した日々でした。膨大なデータと向き合い、一細胞レベルで変化する複雑な分子動態の解釈に試行錯誤を重ねる毎日でした。しかし、顎関節の関節円板後方滑膜における恒常性維持機構の破綻過程を空間的に可視化できた瞬間、これまで積み重ねてきた努力が報われたように感じました。捧げた時間の重みに見合う成果となったことを、大変嬉しく感じております。

最後に、本研究ならびに大学院での研究をご指導いただいた矢野文子先生(昭和医科大学統括研究推進センター)、先進ゲノム支援を通じて空間トランスクリプトーム解析をご支援いただいた鈴木穣先生(東京大学大学院新領域創成科学研究科附属生命データサイエンスセンター)、本研究のデータ解析をご指導いただいた岡田寛之先生(東京大学医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)、そして大学院での研究開始時より長期にわたり本研究を温かく見守り導いてくださった中納治久先生(昭和医科大学歯科矯正学講座)をはじめ、共著者の皆様に心より深謝申し上げます。

澁坂 和大(昭和医科大学歯学部歯科矯正学講座)

2026年6月30日