The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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骨の力学応答を読み解く:進化に刻まれた運動様式の変化とその分子基盤

Bone mechano-response is driven by locomotion transitions during vertebrate evolution
著者: Saeka Shimochi, Clara Brunet, Margalida Fontcuberta-Rigo, Katja Hrovat‬‬‬‬‬‬, Pere Puigbò‬‬‬‬‬, Miho Nakamura
雑誌: Communications Biology. 2025年11月29日. 9,31. doi: 10.1038/s42003-025-09292-1
  • 硬組織進化
  • 骨メカノバイオロジー
  • 骨基質タンパク質


左より、ペレ・プッチボ先生、下地佐恵香博士(筆頭著者)、中村美穂(筆者)

論文サマリー

本研究では、骨基質タンパク質の進化的変化が骨における力学応答(メカノレスポンス)を規定しているという新たな仮説を、細胞実験と進化学的解析を統合することで検証した。具体的には、脊椎動物31種に共通する骨基質タンパク質255種を対象に、バイオインフォマティクス手法を用いて、系統進化解析および正の選択解析を行い、主要な運動様式の転換期に適応進化したタンパク質群を同定した。

まず、脊椎動物における骨細胞外基質(ECM)タンパク質のデータベース(Fontcuberta-Rigo M, et al. Bone Res. 11, 44, 2023)を用いて、脊椎動物の進化におけるECMタンパク質の保存性を比較した。その結果、多くのタンパク質は構造的には保存されている一方で、アミノ酸配列の保存度には大きな差が認められた。さらに、脊椎動物の進化における「水中から陸上への移行(約4億年前)」および「ヒトにおける二足歩行の獲得(約1100万〜400万年前)」という2つの運動様式の転換に着目し、これらの過程で正の選択を受けた(低保存性)タンパク質を同定した。

骨芽細胞に機械刺激を与えた実験では、進化的に保存度が低く、正の選択を受けたタンパク質(osteopontin、BSP、fetuin A/B、MATN3など)の発現が有意に増加した。また、fetuin Aは特に顕著な発現増加を示し、機械刺激に対する主要な応答因子である可能性が示唆された。一方で、RSPO1やannexin A1など保存性の高いタンパク質は、機械刺激による顕著な発現変化を示さなかった。

これらの結果は、骨の力学応答に関与するタンパク質が、進化の過程における運動様式の変化に適応してきたことを示唆する。特に、四肢への力学的負荷が増大した陸上適応や、上下肢での負荷分布が変化した二足歩行の獲得が、骨ECMタンパク質の機能進化に影響を与えたと考えられる。

本研究より、fetuin Aをはじめとする非コラーゲン性タンパク質は、骨粗鬆症などの骨疾患のバイオマーカーや治療標的となる可能性が示された。本研究は、骨の力学応答を進化的適応の観点から再解釈する新たな枠組みを提示するとともに、骨代謝研究および再生医療への応用に重要な知見を提供するものである。


概要図:骨細胞外基質(ECM)タンパク質のうち、特にFetuin Aは機械刺激により顕著に発現が増加することが示された。本研究では、運動様式の進化的転換(水中から陸上、四足歩行から二足歩行)が骨の力学応答機構の形成に関与していることを概念的に示している。 論文の概要動画はYouTube(AJE Video Bytes)を参照されたい。
https://www.youtube.com/watch?v=4Mf7dG7jbh4

著者コメント

筆者は学生時代に『硬組織の起源と進化―分子レベルから骨格系までの形態と機能』(共立出版)を読み、硬組織ミネラルの進化に興味を持った。その後、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)山下仁大先生の研究室にて骨のピエゾ効果を研究する中で、骨ECM非コラーゲンタンパク質の役割について関心を深めた。フィンランド・トゥルク大学への異動後、進化生物学研究者との共同研究および優れた研究環境に恵まれ、本研究を遂行することができた。本研究はNature Portfolio関連のInstagramアカウントでも紹介され、骨格をモチーフとした印象的なビジュアルとともに発信されたことで、骨研究への関心が幅広い層へ広がる可能性を感じた。今後は、これらの分子の機能解析をさらに進め、骨粗鬆症などに対する新規治療標的の創出につなげたい。これまでご指導・ご支援を賜った多くの先生方および共同研究者に深く感謝申し上げる。

中村美穂(University of Turku、La Salle Campus Barcelona Ramon Llull University、東京科学大学)

2026年6月30日