The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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後期高齢者における二次性骨折予防のための骨折後早期治療開始の有効性: J-BOLD study

Effectiveness of treatment initiation for secondary fracture prevention in the older population: Japanese Bone-fracture Osteoporosis in Late-stage population Database study (J-BOLD) – emulation of a randomized target trial
著者: Tsukamoto M, Hamasaki T, Okimoto N, Saito Y, Fujiwara S.
雑誌: Osteoporos Int. 2025 Sep 4. doi: 10.1007/s00198-025-07687-8.
  • 後期高齢者
  • 男性
  • imminent fracture


初代J-BOLDメンバー集結!!現在、続々と仲間が集まってきております。
左から沖本信和先生、著者、藤原佐枝子先生、濱崎貴彦先生。

論文サマリー

世界的な高齢化の進展の中で、日本は特に高齢者率が高く、骨粗鬆症性骨折はQOL低下や医療費高騰の要因となっている。骨折後早期治療開始による二次性骨折抑制効果のエビデンスは乏しい上、後期高齢者や男性を対象とした調査はほとんどない。本研究の目的は、75歳以上の後期高齢者において、骨折後3か月以内に骨粗鬆症治療薬を開始し、少なくとも6か月以上継続することが二次性骨折予防にどの程度有効であるかを検証することであった。

ランダム化比較試験を模倣する標的試験デザインを用い、日本の商用レセプトデータ(DeSCデータベース、2014年4月〜2022年6月)を解析した。対象は骨粗鬆症性骨折が発生した75歳以上で患者で、骨折後90日以内に骨粗鬆症治療薬を開始した群(曝露群、40,063人)と開始していない群(対照群、163,471人)を比較した。高次元傾向スコアマッチングにより、最終的に26,718人ずつの計53,436人が解析対象となった。平均年齢は83.7歳で、女性が77.9%を占めた。

解析の結果、治療を6か月以上継続したDay 270コホートでは、骨折部位を問わない二次性骨折に対するハザード比(HR)は全体で0.78(95% CI: 0.70–0.84)、男性で0.71(0.60–0.86)、女性で0.78(0.71–0.88)であり、12か月以上継続したDay 455コホートではさらに低下した。特に、大腿骨近位部骨折において顕著な予防効果が認められ、Day 270コホートでHR 0.60(0.53–0.66)、Day 455コホートでHR 0.57(0.44–0.66)であった。男女とも治療効果は同程度であり、使用薬剤はビスフォスフォネートが最多(53.3%)で、副甲状腺ホルモン(28.6%)、抗RANKL抗体(7.8%)、抗スクレロスチン抗体(5.3%)、SERM(5.1%)であった。

本研究は、骨折後早期に骨粗鬆症治療薬を開始し、治療を継続することが、後期高齢者の二次性骨折、特に、大腿骨近位部骨折のリスクを有意に低減することを明確に示したものである。超高齢社会における骨折予防戦略の確立に寄与する重要な知見であり、今後の高齢者医療・介入方針の最適化に資するものである。


何かの部位の骨折に関して、骨粗鬆症治療薬の早期開始による二次性骨折抑制効果が男女ともに認められた。

著者コメント

医師として15年以上の経験を重ねてまいりましたが、これまで疫学の分野に携わる機会はほとんどございませんでした。2022年に沖本信和先生や濱崎貴彦先生のお誘いを受け、広島県呉市の疫学調査チーム(Kure-DREAMS)に参加させていただき、そこで藤原佐枝子先生と出会い、疫学調査の設計や結果の考え方について多くを学ばせていただきました。その後、日本人後期高齢者を対象とした商用レセプトデータベース研究チーム(J-BOLD)を立ち上げ、初代メンバー(筆者、濱崎先生、沖本先生、藤原先生)で試行錯誤を重ねながら、本研究を遂行してまいりました。本成果は、今後ますます高齢化が進む本邦において、臨床現場に貢献し得る重要な知見を提供するものと自負しており、多くの先生方にご関心をお寄せいただけましたら幸いです。本研究の遂行にあたり多大なるご尽力を賜りました藤原先生、沖本先生、濱崎先生をはじめ、関係各位に心より感謝申し上げます。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

塚本 学(産業医科大学 整形外科)

2025年10月31日