矯正学的歯の移動に伴う歯根膜の遺伝子発現変化におけるメカノトランスダクションの影響
| 著者: | Suzu Chida, Tomoki Chiba, Yutaro Uchida, Takahide Matsushima, Ryota Kurimoto, Takayuki Miyazaki, Lisa Yagasaki, Satoshi Nakamura, Emiko Mihar, Junichi Takagi, Keiji Moriyama, Hiroshi Asahara |
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| 雑誌: | J Bone Miner Metab, 2025 May. 43(3):216-229. doi:10.1007/s00774-025-01581-3. |
- Mohawk homeobox
- 矯正学的歯の移動
- 歯根膜

左)千田寿々(著者)、右)東京科学大学システム発生再生医学分野 淺原弘嗣教授
論文サマリー
Mohawk homeobox (Mkx)は腱・靭帯の恒常性に寄与するマスター転写因子であり、歯根膜(PDL)における特異的な発現、恒常性維持への寄与、矯正学的歯の移動(OTM)への関与が知られている。しかし、PDLにおけるOTM時の遺伝子発現動態やMkxの関与は未だ不明点が多い。そこで本研究では、PDLにおけるMkxのさらなる機能解明と持続的機械刺激下でのPDLを構成する細胞集団の変化を詳細に解明することを目的として、OTM開始後0日、1週、2週の野生型ラットPDLに対しシングルセルRNA解析を実施し、経時的な各種遺伝子発現動態を網羅的に解析した。結果、ラットPDLは14のクラスターから構成され、間葉系間質細胞集団が最大であることが同定された。また、MkxとPDLの恒常性に関与するもう1つの転写因子であるScleraxis (Scx)はPDLにおいてMkx陽性細胞集団とは異なる独立の細胞集団に発現することが明らかとなった。さらに、コラーゲンと細胞外マトリックス(ECM)の産生はOTM期間を通じて亢進すること、無菌的な炎症反応は初期に亢進した後に減弱すること、骨リモデリングは炎症反応に遅れて生じることが判明した。また、ヒトPDL細胞ではMKXの過剰発現によりCOL1A1の発現が上昇した。これらの結果から、PDLに対する機械的刺激により無菌的な炎症反応が惹起され、それを起点にPDLの恒常性破綻や骨リモデリングが進行することが考察され、Mkxは機械刺激存在下のPDLに対し保護的に作用すると考えられる。

著者コメント
本研究は、OTMを実施したラット第一臼歯から採取したPDLに対しsingle cell RNA-seqを実施しOTM期間中のPDL細胞集団の解析を行うことで、持続的機械刺激存在下のPDLにおける細胞動態及び遺伝子発現変化に関する検討を中心に行いました。
本研究にあたり、研究計画の立ち上げから多くの温かいご指導を賜りました東京科学大学システム発生再生医学分野の淺原弘嗣教授、アデノ随伴ウィルスベクター作成のご協力をくださいました大阪大学タンパク質研究所分子創生学研究室の高木淳一教授をはじめ、ご支援賜った多くの先生方に心より感謝申し上げます。また、このような研究に携わる機会を与えてくださった東京科学大学顎顔面矯正学分野の森山啓司教授ならびに分野の皆様に深く御礼申し上げます。

左)千田寿々(著者)、右)東京科学大学顎顔面矯正学分野 森山啓司教授
●千田寿々(東京科学大学顎顔面矯正学分野)
2025年10月31日



