The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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抗RANKL抗体治療中止による骨量減少の分子機序

Mouse model of anti-RANKL discontinuation reveals reduced bone mass and quality through disruption of bone remodeling
著者: Ishikawa K, Tani S, Sakai N, Kudo Y, Horiuchi H, Kimura-Suda H, Takami M, Tsuji M, Inagaki K, Kiuchi Y, Negishi-Koga T
雑誌: Bone Res. 2025 May 28;13(1):56. doi: 10.1038/s41413-025-00433-0. PMID: 40425548; PMCID: PMC12116787.
  • 抗RANKL抗体
  • 骨粗鬆症
  • 破骨細胞


ASBMR 2019 フロリダにて。
左前: 根岸貴子先生、左後:筆者、右側:当時大学院生 (前より、細沼 / 土谷 / 瀬川先生)

論文サマリー

抗RANKL抗体(デノスマブ)治療中止後に多発椎体骨折のリスクが上昇することは臨床的に知られているが、その機序は不明であった。メカニズムを明らかにするために、ヒトの臨床像を再現するマウスモデルの構築を試みた。臨床における報告では、単回治療後の中止よりも、複数回治療後の中止の方が多発椎体骨折の発生率が高いことが報告されていたため、本研究では、マウスに抗RANKL抗体を複数回投与後に治療を中止する中長期治療モデルを用いた。複数回治療後に中止すると、血中TRAP活性の急激な上昇(overshoot)とともに骨吸収が上昇し、骨密度と骨強度が著しく低下することを同定した。この現象は、患者におけるデノスマブ中止後の骨量減少と比較的一致していた。興味深いことに、骨形態計測での解析では、骨吸収が回復した後も骨芽細胞数や骨形成能は持続的に低下し、長期にわたり骨形成の抑制が示唆された。また、FTIR解析では骨質の劣化も示唆された。 抗RANKL抗体は破骨細胞の分化を抑制することにより、骨吸収抑制させるメカニズムを持つ。そのため、抗RANKL抗体投与期間中に骨髄内の破骨前駆細胞が蓄積しているのではないかと考えた。結果、c-fms陽性の破骨前駆細胞が治療中に異常に蓄積しており、さらに血中にはRANKLを含む細胞外小胞(EV)の増加も確認された。また、これらのEVはIn vitroでRANKLを介し、破骨細胞分化を促進する性質を持っていた。これらを合わせると、治療中に破骨細胞前駆細胞が蓄積し、治療を中止するとこれらRANKL含有EVが破骨細胞の分化を促進し、破骨細胞のOvershoot現象(異常活性化)が誘導されると考えられた。対照的に、ビスホスホネート中止後には同様の前駆細胞蓄積やEV増加は認められず、RANKL特異的な現象であることが示唆された。 本研究は、抗RANKL抗体の中止が一過性の異常骨吸収増加(Overshoot現象)と長期的な骨芽細胞枯渇を引き起こし、骨量および骨質の低下をもたらすことを初めて明らかにした。これにより、デノスマブ中止後の病態の分子基盤が示唆され、今後の治療戦略にも活用されることが期待される。

著者コメント

本研究の始まりは2015年頃に臨床でデノスマブ治療中止後の異常な骨吸収増加を呈した患者さんを診察したことがきっかけになります。その際は症例報告もほぼなく、治療に難渋しました。既に臨床で使用されている薬剤の未知の合併症に日本骨粗鬆症学会・ASBMRはじめ多くの学会で議論・混乱が起き、我々の症例報告にも多くの懐疑的な意見もいただきました。私自身はデノスマブでの良好な治療成績を実感しているただけに、中止による合併症の分子メカニズムを解明できれば、治療方針を決める際にも役立つのではないか?と考え、2018年に昭和大学薬理科学研究センターに在籍しておられた根岸貴子先生に相談しました。既に学位(2016年に臨床研究で取得)も取り終えている、基礎研究歴「ゼロ」の私からの相談にも関わらず、根岸先生は快く指導を受け入れてくださいました。ピペットの使い方も分からない臨床医を指導することの苦労は想像を絶すると思います(笑)。また、根岸先生も師事してから1年程度で東京大学医科学研究所に移動されたので私自身も継続して指導してもらうために苦労しました、今となっては何度も研究室を往復し、朝まで一緒に実験していただいたのも良い思い出です。基礎研究に足を踏みいれた際は純粋な学問的な興味からでしたが、その後の未来は想像できていませんでした。脊椎外科であった私も、気が付けば基礎研究を始めて少し時間が経っており、根岸先生の厳しい優しいご指導のおかげで、現在はDuke大学整形外科のDr.Almanの下で基礎研究を行って早4年になります。まだ研究者としては未熟者ですが、今後も面白い研究ができるよう地道に精進していきたいと思います。末筆になりますが、根岸先生をはじめ、本研究に携わっていただいた、昭和大学整形外科、薬理科学研究センター、公立千歳科学技術大学の皆様に心より感謝申し上げます。


整形外科研究室にて(左から、筆者、谷先生、研究補助員: 戸渡さん)

石川 紘司(Duke整形外科)

2025年10月31日