The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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透析患者におけるデノスマブ投与は、腹部大動脈石灰化の進行と関連する

Denosumab associated with accelerated progression of abdominal aortic calcification among patients on dialysis
著者: Tetsuya Seto, Kiminori Yukata, Zenzo Fujii, Masaki Shibuya, Tomoya Okazaki, Atsushi Mihara, Kazuya Uehara, Kenji Takemoto, Shunya Tsuji, Akihiko Sakamoto, Junya Nawata, Keiko Iwaisako, Norihiko Takeda, Kojiro Sato, Masataka Asagiri, Takashi Sakai
雑誌: Journal of Bone and Mineral Research, 2025 July 10, 2025(2025年7月10日) DOI : 10.1093/jbmr/zjaf093.
  • デノスマブ
  • 血管石灰化
  • 慢性腎臓病


2024年Orthopaedic Research Societyにて
左より、三原先生、上原先生、西田先生、坂井教授、著者、油形先生

論文サマリー

慢性腎臓病(Chronic Kideney Disease: CKD)患者は、骨・ミネラル代謝異常のため骨粗鬆症および血管石灰化の発症リスクが高い。また最近の研究で、血管石灰化部には、血管平滑筋細胞から分化した骨芽細胞様細胞、および単球・マクロファージから分化した破骨細胞様細胞が存在し、骨代謝に類似した環境が形成されていることが報告されている。

このような背景から、CKD関連骨粗鬆症の治療では、使用する薬剤の骨への影響だけでなく、血管への影響についても十分な配慮が求められる。しかし現状では、骨と血管の両面で十分なエビデンスを有する薬剤は限られており、腎安全性が確認されている骨吸収抑制薬デノスマブが治療の中心的役割を担っている。

本研究では、CKD患者の中でも、特に骨粗鬆症、血管石灰化のリスクが高い血液透析患者を対象に、デノスマブ治療前後の骨密度、採血データ、および腹部大動脈石灰化の変化について後ろ向きに評価した。対象は2017〜2022年に、単一施設で年1回、骨密度測定と腎癌スクリーニング目的の腹部CT撮影を受けた46例とした。そのうち25例がデノスマブ治療を受けていた。

治療開始から2年の腰椎骨密度のベースラインからの平均変化率は、デノスマブ群で8.5%であり、対照群の1.5%を有意に上回った。また、治療開始後2年の腹部大動脈血管石灰化の平均増加率については、デノスマブ群で34.6%に対し、対照群20.5%であり、デノスマブ治療群で有意に増加した。なお、デノスマブ群では投与後に低カルシウム血症が多く発生しており、カルシウム製剤、ビタミンD受容体作動薬、カルシミメティクスの調整による補正が行われたが、その影響により一過性の高カルシウム血症を呈する症例も多く認めた。結果として、デノスマブ群では観察期間中の血清カルシウム値の変動が対照群に比べて大きかった。

本研究は、透析患者におけるデノスマブ治療が骨密度を改善する一方で、腹部大動脈石灰化の進行を加速させる可能性を示したものである。血管石灰化の進行については、デノスマブが、血管石灰化部に存在する破骨細胞機能を抑制したことが一因である可能性もあるが、同じ骨吸収抑制薬であるビスホスホネートは、血管石灰化を抑制する効果があることが報告されており、この仮説のみでは十分に説明できない。今回、治療中に観察された一過性の血清カルシウム値の上昇が石灰化の進行に関与した可能性もある。血管石灰化の病態生理は依然として未解明な部分が多く、今後の大規模な前向き研究や、ランダム化比較試験による検証が期待される。

著者コメント

CKDでは、骨や血管、ミネラル代謝の異常が複雑に絡み合い、病態も一様ではありません。そのため、一般的な骨粗鬆症治療の枠組みでは判断に迷う場面も多く、臨床現場での疑問が本研究の出発点となりました。今後、さらなる研究の積み重ねにより、CKD患者の骨・血管管理に新たな知見が加わることを願っています。本研究の遂行にあたり、ご指導を賜りました、セントヒル病院腎臓内科 藤井善蔵先生、山口大学医学部薬理学講座 朝霧成挙教授、山口大学医学部整形外科 油形公則先生、坂井孝司教授に深く感謝申し上げます。

瀬戸 哲也(山口大学医学部整形外科)

2025年10月31日