歯原性間葉のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)3阻害による歯根成長制御
| 著者: | Kunimichi Niibe, Dana L. Begun, Kanna Doi-Fujimura, Atsuhiro Nagasaki, Elizabeth Zars, Xiaodong Li, Earnest L. Taylor, Mary B. MacDougall, Hiroshi Egusa, Jennifer J. Westendorf |
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| 雑誌: | Journal of Bone and Mineral Research, July 25, 2025, 40(10), 1177-1187, DOI: https://doi.org/10.1093/jbmr/zjaf102 |
- 歯根成長
- エピジェネティクス制御
- HDAC3

左:共著者の江草教授 中央:共著者のWestendorf教授 右:筆頭著者本人新部
論文サマリー
歯の形態制御について、例えば咬頭の形成などは遺伝的要因に影響を受けることが知られています。しかし、環境的要因など遺伝子のDNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子のオン・オフの切り替え制御についてはあまり分かっていませんでした。
今回、硬組織特異的に発現する遺伝子であるOsterixが発現した細胞で、エピジェネティクス因子として知られるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)3の発現が欠失するマウス(cKOマウス)の歯を解析したところ、野生型マウス(WTマウス)と比較して歯根の長さが短くなり、歯根尖が早期閉鎖することを見出しました(下図)。

細胞の動態を解析するため、cKOマウスから採取した歯髄細胞を採取して石灰化条件で培養すると、WTマウスから採取した細胞と比較して石灰化が抑制されました。さらに、HDAC3の発現抑制薬を用いてセメント芽細胞株(IDG-CM6)に処理を行ったところ、抑制薬の濃度依存的に細胞の石灰化が抑制されました(図右)。一方、石灰化に関する遺伝子発現はそのほとんどが抑制されましたが、一部の遺伝子は上昇することが分かりました。単純に石灰化が抑制される場合、根尖孔は開いたままであることが予想されますが、cKOマウスの根尖孔は早期閉鎖することから、正常な歯根発育を目指しているように見えます。石灰化に関するシグナル伝達は、MAPKカスケードやSmadシグナリング、Wntシグナリングがクロストークしていることが知られており、歯原性間葉細胞のHDAC3発現抑制は、その一部が抑制されていることや細胞の増殖やセルサイクルに影響を及ぼすことが予想されますが、さらなるメカニズムの解析が必要です。
本技術は、試験管内で誘導された歯胚の歯根成長を遺伝子操作することなく人為的に操作し、必要な長さを超えないよう制御する技術に応用できる可能性や、歯原性細胞の新たなエピジェネティクス制御性の発見につながる可能性があります。
著者コメント
これまで、歯の成長に関するエピジェネティクス制御性についてはあまり報告がありませんでした。今回、in vitro解析から歯原性間葉細胞においてHDAC3を抑制することで、その石灰化が抑制されました。一方、Osterix発現細胞でHDAC3の発現を欠失するトランスジェニックを用いたin vivo解析からは、象牙質やセメント質の石灰化が完全に抑制される訳ではなく、象牙質やセメント質はイレギュラーな成長をしながら、歯根尖を正常に閉鎖しようとしていることが分かりました。今後の解析が必要ですが、様々な因子が複雑に絡み合いながら歯胚組織は成長していることが予想されます。
本研究は、骨代謝で権威のあるJournal of Bone and Mineral Researchに掲載され、表紙画像に選ばれましたので、ぜひJournalホームページをご訪問いただけると幸いです。https://academic.oup.com/jbmr/issue/40/10
新部 邦透(東北大学歯学部分子・再生補綴学)
2025年10月31日




