The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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マウスにおける軟骨内骨化過程での背腹軸早期決定

Early determination of the dorsal-ventral axis in endochondral ossification in mice
著者: Wu S, Matsumoto H, Morita J, Yamabe M, Noguchi A, Shinsuke O, Ono N, Matsushita Y
雑誌: Journal of Bone and Mineral Research 2025
  • 骨発生
  • 軟骨内骨化
  • Fgfr3


学位審査後。左:Wuさん 右:著者(松下)

論文サマリー

長管骨の発生様式である軟骨内骨化では、胎生期骨発生初期の間葉系凝集と、それに引き続く軟骨原基やその周囲を取り囲む軟骨膜が、全ての骨格の起源として骨格系細胞を供給する。特に四肢骨格の軟骨内骨化については、これまでにPrrx1を発現する間葉系細胞、その中でもSox9を発現する間葉系凝集がほぼ全ての骨格の起源であることが明らかにされ(Akiyama, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005)、さらにその後の軟骨原基形成期ではFgfr3を発現する軟骨原基の細胞と、軟骨原基を取り囲むDlx5やOsterix/Sp7を発現する軟骨膜の細胞が、それぞれ独立した骨格系細胞の起源として長管骨の発生・成長に寄与していることをわれわれや他の複数のグループによって明らかにしてきた(Maes, et al. Dev Cell 2010, Matsushita, et al. Nat Commun 2022)。また、最近では、間葉系凝集周囲のHes1を発現する細胞集団も骨格形成に寄与することが明らかとなり(Matsushtia, et al. J Biol Chem 2023)、骨発生初期の間葉系細胞の動態と骨格形成過程について、徐々に解明されつつある。しかしながら、時空間的な多様性を考慮した骨格形成過程の全貌解明のためには、さらなる詳細な解析が必要である。

本研究ではまず骨の発生初期(間葉系凝集形成期)に着目し、ほぼ全ての間葉系細胞を標識するPrrx1-cre; R26RtdTomatoマウス胎生11.5日(E11.5)の四肢骨格tdTomato陽性間葉系細胞のシングルセルRNA-seq解析データを用いて、骨発生初期に存在する細胞の多様性を一細胞レベルで明らかにした。Sox9を発現する間葉系凝集の集団の中にFgfr3を高発現するサブセットの存在が明らかになった。次にFgfr3の発現を組織学的に検証したところ、Fgfr3陽性細胞はSox9陽性領域の中央に位置していた。Fgfr3-creER; R26RtdTomatoマウスにタモキシフェンをE10.5で投与し、Fgfr3陽性細胞の細胞系譜追跡を行ったところ、間葉系凝集の中央に局在していたFgfr3陽性系譜細胞は、軟骨原基形成期には軟骨細胞肥大層に加え、背側選択的に静止層、増殖層の軟骨細胞へと分化していた。さらに生後21日、3か月まで追跡したところ、非常に興味深いことに、背側選択的に成長板軟骨、皮質骨、海綿骨、骨髄に存在する骨格系細胞(軟骨細胞、骨芽細胞、骨髄間質細胞)へと分化していた(図1)。


図1:骨発生初期長管骨のFgfr3陽性細胞の系譜追跡。間葉系凝集形成期ではFgfr3はSox9陽性間葉系凝集の中央を標識する。それらの細胞は骨の成長にともなって、背側の骨格系細胞に寄与する。

これらFgfr3陽性細胞の骨格への貢献を明らかにするために、Fgfr3-creER; R26RtdTomato/DTAマウスに対してタモキシフェンをE10.5で投与し、Fgfr3陽性細胞を標識かつ同細胞の細胞死を誘導したところ、E15.5の時点で骨格の伸長が著しく阻害されていた(図2)。


図2:DTAマウスを用いた、Fgfr3陽性細胞の骨格への貢献。DTAマウスでは骨格の伸長が著しく阻害されている。

以上のように、成体の骨格を構成する細胞の起源は、骨発生初期の間葉系凝集形成の時点で細胞多様性とともに厳密にプログラムされており、特に間葉系凝集の中央を占めるFgfr3陽性細胞は胎生期の骨格の成長に重要な役割を果たすとともに、生後は背側の骨格形成に大きく貢献することが明らかとなった。本研究による知見は、将来的には先天性骨系統疾患の病態解明や治療法開発への貢献が期待できる。

著者コメント

発生過程では組織がダイナミックに成長するため、特定の細胞集団に着目した系譜解析からさまざまな新たな知見を得ることができ、著者自身、この研究に大変やりがいを感じていました。特に近年ではシングルセル解析手法が一般化し、発生初期の細胞多様性が明らかになってきており、細胞系譜追跡によってそれを検証することは大きな意義があることだと感じています。

今回の研究では間葉系凝集の細胞多様性に着目して、E10.5におけるFgfr3陽性サブセットの系譜追跡を行いましたが、これまでさまざまな細胞の系譜追跡をしてきた中で、長管骨の片側にしか系譜細胞が寄与しないような像を見たのは初めてであり、驚きとともに、率直に「おもしろい!」と感じました。生物学的な意味やメカニズムについては本論文では突き詰めきれておらず今後の課題だと考えておりますが、軟骨内骨化による長管骨の発生過程の一端を明らかにできたかと思います。

本研究は私(松下)が米国でのポスドク時代に開始し、帰国後に長崎大学で大学院生のWuさんを中心に発展させ、学位論文として仕上げたものになります。米国でお世話になりました、テキサス大学ヒューストン校の小野法明先生にはこの場を借りて感謝申し上げます。

松下 祐樹(長崎大学歯学部)

2025年10月31日