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CXCL12陽性歯根尖部幹細胞はWntシグナルを介して歯根形成に寄与する

Wnt-directed CXCL12-expressing apical papilla progenitor cells drive tooth root formation
著者: Nagata M, Gadhvi GT, Komori T, Arai Y, Manabe H, Chu AKY, Kaur R, Ali M, Yang Y, Tsutsumi-Arai C, Nakai Y, Matsushita Y, Tokavanich N, Zheng WJ, Welch JD, Ono N, Ono W
雑誌: Nature Communications. 2025 Jul 1;16(1):5510. doi: 10.1038/s41467-025-61048-x.
  • CXCL12
  • 歯根形成
  • 細胞系譜追跡


Ono研究室メンバーとの集合写真(2022年、テキサス大学歯学部Ono研究室にて)。Wanida Ono先生(前列右から2番目)、小野法明先生(前列右から3番目)、筆者(後列一番右)

論文サマリー

歯根は、歯を顎骨に支える機能を担い、健全な歯列機能を維持するために重要な歯の構成要素である。歯根と歯槽骨は歯根膜組織を介して機械的力に応答し、適切な咀嚼機能を維持ための役割を果たす。そのため、健全な歯根とその周囲組織は、歯が基本的な機能を果たすために必要不可欠である。歯根形成は、歯胚の上皮と間葉組織の細胞が相互に作用することによって伸長される。特に歯根尖部の間葉系細胞は、歯根形成期において活発に増殖・分化し、中心的な役割を果たすと考えられている。実際に歯根形成中のヒト歯根尖端部から歯乳頭由来幹細胞(SCAPs)と呼ばれる間葉系幹細胞(MSCs)が単離され、再生医療研究に応用されている(Sonoyama, Shi, et al. PloS One 1.1, e79, 2006)。しかしながら、生体内におけるこれら歯根尖部の間葉系細胞の詳細な細胞運命や分化制御機構はいまだ明らかになっていない。

そこで我々は、in vivoにおける歯根尖部幹細胞のダイナミクスを解析するため、独自に作出したタモキシフェン誘導性Cxcl12-creERマウスを用いて、歯根尖部細胞およびその系譜細胞を蛍光分子tdTomatoで標識することで細胞系譜の追跡 を行った。歯根形成開始期(生後3日齢)にてタモキシフェンを投与し、経時的に細胞運命を組織切片にて観察を行ったところ、CXCL12陽性歯根尖部細胞は歯根内部の歯髄細胞や象牙芽細胞だけでなく、歯根外部表面のセメント質を形成するセメント芽細胞にも分化することが明らかとなった(図1)。


図1:歯根形成期におけるCXCL12陽性歯根尖部幹細胞の細胞系譜追跡。(本論文より改変)タモキシフェンを歯根形成開始期である生後3日齢にて投与し、2日後にTomato陽性細胞の局在を観察したところ、歯根尖部特異的に強く発現していた。さらに、生後25日齢にてCXCL12陽性細胞の系譜追跡を行ったところ、CXCL12陽性歯根尖部細胞は歯根内部の歯髄細胞や象牙芽細胞だけでなく、歯根外部表面のセメント質を形成するセメント芽細胞にも分化することが明らかとなった。

さらに、定常状態ではCXCL12陽性細胞は歯槽骨の骨芽細胞へは分化しないが、骨損傷時には骨芽細胞へと分化し、可塑性を持ち組織修復に貢献した。また、シングルセルRNA解析によりCXCL12陽性歯根尖部細胞は多様な細胞から構成されること、歯髄細胞やセメント芽細胞の細胞源であること、上皮細胞と豊富なWntシグナル伝達を行っていることが予測された。実際にCXCL12陽性歯根尖部細胞特異的にb-Cateninを欠失させ古典的Wntシグナルを不活性化したところ、象牙芽細胞やセメント芽細胞への適切な分化が阻害され、歯根形成細胞著しい歯根形成不全を引き起こした(図2)


図2:CXCL12陽性歯根尖部幹細胞はWntシグナルを介して歯根形成に寄与する。(本論文より改変)CXCL12陽性歯根尖部幹細胞特異的にb-Cateninを欠失させ古典的Wntシグナルを不活性化したところ、生後25日齢(タモキシフェン投与3日齢)にて象牙芽細胞やセメント芽細胞への分化が阻害され、Periostin陽性の歯根膜細胞へ分化がシフトしていた。さらに6ヶ月齢においてuCT解析を行ったところ、CXCL12陽性歯根尖部幹細胞特異的Wnt不活性群において顕著な歯根形成不全を起こした。

以上より、CXCL12陽性歯根尖部細胞は古典的Wntシグナルを介して象牙芽細胞やセメント芽細胞を供給し歯根形成に寄与し、さらには骨損傷時には骨芽細胞を供給し組織修復にも貢献することが明らかとなった。

著者コメント

2018年に渡米し、約7年の歳月をかけて筆頭著者としてのプロジェクトをまとめることができ、大変嬉しく思います。さらに、歯根形成メカニズムに着目した本論文と合わせて、別論文にて新たな歯槽骨形成メカニズムを筆頭著者として報告し(Nagata, Ono N, Ono W et al. Nat Commun 16(1):6061, 2025)、関連する2報の論文をNature Communicationsへ掲載することができました。同時に論文を投稿し、2つのプロジェクトのリバイス実験を並行して行ったことは、大変貴重な経験となりました。何度も心が折れそうになる時がありましたが、留学先であるOno研究室のメンバーの多大なる協力で無事実験を乗り切ることができ、本当に感謝しています。本研究で得られた知見をさらに発展させ、将来的に幹細胞を標的とする再生医療研究等に応用できるよう精進したいと思います。最後に、ご指導いただいたWanida Ono先生や小野法明先生をはじめ、サポートいただいた皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。

永田 瑞(東京科学大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野)

2025年10月31日