
ネプリライシン阻害薬はCNP/NPR-B経路を介して骨伸長を促進する
著者: | Hakata T, Ueda Y, Yamashita T, Yamauchi I, Kosugi D, Sugawa T, Fujita H, Okamoto K, Fujii T, Taura D, Yasoda A, Akiyama H, Inagaki N. |
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雑誌: | Endocrinology. 2024 May 27;165(7):bqae058. doi: 10.1210/endocr/bqae058.PMID: 38752331 |
- 骨伸長
- ナトリウム利尿ペプチド
- ネプリライシン
論文サマリー
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)はその受容体であるナトリウム利尿ペプチド受容体B(NPR-B)と結合し骨身長を促進する因子であり、軟骨無形成症の治療薬として臨床応用されている。CNPの分解にはクリアランスにはたらくナトリウム利尿ペプチド受容体C(NPR-C)およびネプリライシン(NEP)が関わっており、我々はNPR-Cの競合的阻害がCNP分解抑制を介し骨伸長促進効果を示すことを報告している(Kanai Y et al. J Clin Invest. 2017)。一方NEPの阻害による骨身長への影響は未だ明らかでなく、検討を行った
3週齢のオスの野生型マウスに対してNEP阻害薬であるサクビトリルの経口投与を4週間行った。サクビトリルの投与により対照群と比較して、終了時の吻臀長および椎骨の骨長が用量依存性に有意に伸長した。成長促進効果はCNP、NEPの発現量の多い、3~4週齢と若年の週齢で顕著であった。これらはメスのマウスにおいても同様の結果であった。
にサクビトリル、CNPの投与の比較を行った。CNPに関しては皮下注射で有意な効果を得るためにNEPで分解されにくいCNP-53を用いた。吻臀長はサクビトリル・CNP共に対照群と比較して有意に増加したが、サクビトリル・CNPの共投与に相加的な効果は認めなかった。成長板の組織学的解析ではサクビトリルにより対照群と比較して増殖層と肥大化層が有意に肥厚し、CNPの投与における成長板の変化と類似していた。
さらに軟骨特異的NPR-Bノックアウトマウスに対してサクビトリルの投与を行ったところ骨伸長の促進を認めなかった。胎生16.5日のマウス脛骨の器官培養においてもサクビトリルはCNPと同様に骨伸長を促進し、肥大化層を中心とした成長板の肥厚を認めた。成長板軟骨を模倣する細胞株ATDC5細胞に対して、サクビトリル、CNPを添加したところ、CNPの下流シグナルである細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)のリン酸化の抑制はCNP同様にサクビトリルの投与においても認めた。
これらの結果からNEP阻害薬はCNP/NPR-B経路を介して骨伸長を促進することが示された。NEP阻害薬であるサクビトリルは成人においては経口投与が可能な薬剤であり、低身長症治療の新たな選択肢となり得る。
著者コメント
大学院に入学した際に先輩方のCNPに関する研究を目の当たりにし、その明確な成長促進効果に大きな衝撃をうけました。CNPは強い成長促進効果を持つ反面、半減期が非常に短く、NEP阻害による分解抑制が有効であると考え実験を行いました。NEP阻害薬がCNP同様に成長促進効果を持つことを本研究で始めて示すことができたと考えています。研究室の先生方から数々の指導をいただき、本研究結果を発表することができました。今後これまでCNPの投与が有効であることが証明されている疾患モデルマウスに対して実験を行い、NEP阻害薬の臨床的な応用を見据えた研究を行っていきたいと思います。
(京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 伯田 琢郎)
2024年10月7日