日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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抗スクレロスチン抗体の投与はインターロイキン-6との関連を介して虚血性大腿骨頭壊死での骨圧潰を抑制する

Anti-sclerostin antibody therapy prevents post-ischemic osteonecrosis bone collapse via interleukin-6 association.
著者: Ozawa Y, Takegami Y, Osawa Y, Asamoto T, Tanaka S, Imagama S.
雑誌: Bone. 2024 Feb 1;181:117030. doi: 10.1016/j.bone.2024.117030. Online ahead of print.
  • Wntシグナル
  • IL-6
  • 大腿骨頭壊死


著者近影(左:小澤 悠人、右:竹上 靖彦)

論文サマリー

大腿骨頭壊死症(ONFH)は、大腿骨頭の骨壊死により関節破壊をきたす進行性の疾患です。ONFHの病因は未だ明らかになっていませんが、慢性炎症との関連が示唆されています。特に、インターロイキン-6(IL-6)は慢性炎症に関与するサイトカインとして知られており、小児の虚血性大腿骨頭疾患であるペルテス病の病因にもIL-6の関与が示唆されています。一方、Wntシグナル伝達経路(Wntシグナル)は、β-カテニンの核内移行を介して骨形成に関与する重要な経路です。抗スクレロスチン抗体はスクレロスチンを阻害し、Wntシグナルを活性化させることで骨形成を促進し、骨吸収を抑制します。近年、ONFHとWntシグナルとの関連性が示唆されています。このように、ONFHの病態にIL-6とWntシグナルがそれぞれ関与することは明らかになりつつありますが、両者の関連性についてはまだ十分に解明されていません。そこで本研究では、ONFHにおけるIL-6とWntシグナルの関係性を探ることで、病態解明と抗スクレロスチン抗体を用いた治療法開発の手掛かりを得ることを目的としました。

この研究では、ヒトの大腿骨頭標本とマウスの虚血性骨壊死モデルを用いて解析を行いました。まず、ヒト大腿骨頭標本におけるβ-カテニンとIL-6の発現を評価するため、ONFH患者と変形性股関節症(OA)患者からTHA手術で摘出した大腿骨頭組織を用いました。β-カテニンとIL-6に対する一次抗体を用いて免疫組織化学染色を行いました。ONFH患者の大腿骨頭では、壊死領域と生存領域の間にある修復領域(移行層)においてβ-カテニンとIL-6の発現が上昇していました。一方、OA患者の大腿骨頭ではβ-カテニンとIL-6の発現は低レベルでした。このことから、ONFHの病態にWnt/β-カテニン経路とIL-6が関与している可能性が示唆されました。

次に、マウスの虚血性骨壊死モデルを用いて、抗スクレロスチン抗体の効果を評価しました。8週齢の雄性C57BL/6Jマウスを使用し、血管焼灼による骨壊死モデルを作成しました。術後2週目から週2回、100μg/kgの抗スクレロスチン抗体を6週間皮下投与しました。抗スクレロスチン抗体投与群では、未治療群と比較して骨壊死領域が縮小し、空の骨小腔の数が減少していました。また、抗スクレロスチン抗体投与群ではβ-カテニンの発現が上昇し、IL-6の発現が抑制されていました。μCTでは抗スクレロスチン抗体投与群では、未治療群と比較して、骨量と骨質が改善していました。また、抗スクレロスチン投与群では、未医療と比較して、大腿骨頭の圧縮強度が有意に改善していました。

本研究では、抗スクレロスチン抗体によって活性化されるWntシグナルとIL-6がONFHの病態に関与している可能性が示されました。抗スクレロスチン抗体は、骨粗鬆症治療薬として既に臨床応用されており、安全性が確認されています。したがって、抗スクレロスチン抗体によるONFH治療は、比較的早期の臨床応用が期待できると考えられます。


図:マイクロCTによる壊死部の評価。壊死モデルにおいても、抗スクレロスチン抗体の投与によって骨量の回復が認められる

著者コメント

近年、Wnt/βカテニンシグナルと大腿骨頭壊死の関連が注目されています。私たちは、阻血性骨壊死においてもこのシグナルの活性化が回復を促進するのではないかと考え、ロモソズマブを使用しました。研究中、βカテニンの免疫染色がうまくいかず、数ヶ月間試行錯誤しましたが、抗体を変更することで染色が成功し、壊死の回復が進む移行層においてシグナルが活性化されていることを確認できました。この研究は、大腿骨頭壊死の新たな治療ターゲットとして期待されます。本研究に多大な御指導を受け賜りました整形外科竹上靖彦講師をはじめとする共著者の先生方、当研究室の皆様にはこの場を借りて心より御礼申し上げます。

(名古屋大学整形外科 小澤悠人、竹上靖彦)

2024年10月7日