
マクロファージを枯渇させるとマウスBRONJ様病変は悪化する
著者: | Kozutsumi R, Kuroshima S, Al-Omari F.A., Hayano H, Nakajima K, Kakehashi H, Sawase T |
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雑誌: | Bone. 177: 116899. doi: 10.1016/j.bone.2023.116899. PMID37708951 |
- BRONJ
- マクロファージ
- クロドロネート
論文サマリー
ビスホスホネート(BP)製剤関連顎骨壊死(BRONJ)は、BP製剤使用患者で惹起される可能性がある病態形成機構が不明な難治性硬軟組織疾患である。我々は、BRONJへのマクロファージ(MΦ)供給阻害がBRONJを悪化させると仮説を立て、クロドロネート・リポソームを応用して、開発済みの高頻度発現型BRONJ様病変モデルマウスからMΦを一時的に枯渇させる実験を行った。本研究の目的は、MΦの時間選択的枯渇がマウスBRONJ様病変に与える影響を検索し、BRONJの病態が悪化するのかを明らかにすることにある。
雌性C57BL/6Jマウスを用いた。はじめに、抗がん剤であるシクロフォスファミドとBP製剤であるゾレドロネートの併用投与に抜歯を組み合わせて高頻度発現型BRONJ様モデルマウスを作製した。抜歯と同時にクロドロネート内包リポソームを右側抜歯部周囲頬粘膜下へ毎日投与した(CLO)。対照群はPBS内包リポソーム投与群とした(Ctrl)。全てのマウスは抜歯後2週で屠殺して上顎、長管骨、血清、ならびに脾臓を採取し、口腔内写真、マイクロCT撮像、各種組織染色、ならびにELISAから、創部の肉眼的評価、3次元的骨構造解析、組織形態学的・組織病理学的・免疫病理学的解析、ならびに血清解析をそれぞれ行った。
定量解析の結果、CLOはCtrlと比較して、脾臓の細胞占有率とF4/80⁺MΦ数の減少に加え、大腿骨破骨細胞数の有意な減少を認めたことから、局所的なクロドロネート投与は全身組織に影響を与えることが分かった。一方、BRONJ病変部硬組織において、CLOはCtrlと比較して創部開放率と創部開放面積を有意に増大させ、抜歯窩の新生骨では壊死骨が増大するとともに、抜歯部既存骨でも有意な壊死骨の増大を認め、破骨細胞数の有意な減少も起こっていた。また、BRONJ病変部軟組織では、コラーゲン産生の有意な減少と多形核白血球浸潤の有意な増加を認めたことから、MΦの時間選択的な枯渇が、薬剤の影響を受けた抜歯部硬軟組織治癒を悪化させることが明らかとなった。さらに、結合組織内MΦの分布を検索した結果、F4/80+MΦ数の有意な減少が起こり、その内訳はF4/80+CD38+M1 MΦの有意な増加とF4/80+CD163+M2 MΦの有意な減少であり、全体としてはその極性がM1へシフトしていることが分かった。
以上から、BRONJモデルマウスにおいてMΦの供給が阻害されると、病変部破骨細胞数の減少とF4/80+MΦ数の減少を伴いながらその極性をM1へシフトさせ、BRONJ病態を悪化させることが証明された。破骨細胞や病変部MΦの細胞挙動がBRONJの病態形成メカニズムに直接的な影響を与えていることが示唆された。
著者コメント
本研究では、BRONJ病変部におけるMΦの細胞挙動に着目して実験を行い、MΦを枯渇させることで病変部破骨細胞とMΦの細胞挙動が大きな影響を受け、ひいてはBRONJ様病変の悪化を惹起することを明らかにしました。このことは、MΦや破骨細胞が、BRONJの病態形成機構や創部治癒と直接的な関連性を有することを示唆しています。今後も薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の病態形成機構解明と治療法開発を目指した基礎的研究を行っていきたいと思います。最後に、本研究に御協力頂いた皆様に感謝申し上げます。
(長崎大学生命医科学域(歯学系)口腔インプラント学分野・小堤 涼平 / 黒嶋 伸一郎)
2024年6月27日