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オステオサイトのミトコンドリアはtranscortical vesselの血管新生を制御する

Osteocyte mitochondria regulate angiogenesis of transcortical vessels
著者:Liao P, Chen L, Zhou H, et al
雑誌:Nature Communications 15, 2529, 2024
  • オステオサイト
  • 血管内皮細胞
  • ミトコンドリア

論文サマリー

血管は酸素や栄養を供給し、老廃物を除去することで、組織の恒常性維持に関わる。マウス長管骨を走行する血管は、約16本の栄養動脈と中心静脈洞と連結した2本の静脈経路に加え、皮質骨を直角に貫通する数百本の毛細血管(transcortical vessel, TCV)から構成される。本論文では、オステオサイトがTCVの血管内皮細胞にミトコンドリアを供給することで、血管新生を調節することを明らかにした。筆者らは、大腿骨内のオステオサイトの樹状突起の約6割がTCV近傍に延び、そのうち約7割が血管と接触していることを見出した。ジフテリア毒素受容体を用いてオステオサイトを除去したマウスでは、TCVの構造異常に加え、血管新生に関わる遺伝子群(Vegfc、Slit3など)の発現が低下し、オステオサイトとTCVとの相互作用が重要な役割を果たしていることが示された。内皮細胞株とオステオサイト様細胞株との共培養実験の結果、➀オステオサイトのミトコンドリアが微小管を介した輸送因子Miro1(Rhot1)を介して内皮細胞へ移行すること、②移行後の内皮細胞では酸化的代謝の亢進に加え、細胞増殖、管形成、細胞遊走といった血管新生に関する機能が高まること、③血管新生の亢進には、スフィンゴシン代謝経路が関与することが明らかとなった。さらに、血管新生が関与する骨折修復マウスモデルを用いた実験によって、オステオサイトのミトコンドリア移植やスフィンゴシンの投与が骨折修復を有意に促進することが示された。以上の結果から、TCVの恒常性維持にかかわるオステオサイトの新たな役割が示唆された。

推薦者コメント

ミトコンドリアは、トンネルナノチューブ(Tunneling nanotube)や細胞外小胞などの様々な経路を介して細胞間を移行し、細胞の形質に影響を及ぼすことが知られている。従来の研究では、これがミトコンドリアに限定されるものではなく、小胞体、ゴルジ体、リソソーム、ペルオキシソームといった他のオルガネラも細胞間を移行することが明らかになっている。今後、骨代謝分野においても、様々なオルガネラの細胞間輸送を介した新たな制御機構の解明が期待される。
(同志社大学生命医科学部医生命システム学科・西野一正、西川恵三)

(2024年11月21日)